開示資料よどこへ行く?
上場企業、クレーム件数など経営の舞台裏開示を――経産省が導入促す(6/5 日経)
経済産業省は上場企業に対し、経営実態や成長戦略を細かく開示する「知的資産・経営報告書」の作成を促す。客単価の推移や受けつけたクレームの数など有価証券報告書ではわからない経営関連指標の公開も求め、投資家が企業の将来性を判断する目安にする。開示基準案を10日にも公表し、まずは企業による自発的な導入を目指す。
開示基準案は産業構造審議会(経産相の諮問機関)の委員会が決める。環境報告書や知的財産報告書と同様に法的な義務ではないが、積極的に開示すれば投資家からの信頼が高まる利点を説明して企業に導入を呼びかける。東京証券取引所も前向きに評価しており、開示ルールに将来盛り込むことを視野に入れている。
企業統治 チェック厳しく 金融庁3年後にも新ルール(6/2 日経)
不正対策は十分か。経営統合の決断で適正な手順を踏んだか、経費をきちんと管理しているか--- ガバナンス(企業統治)へのチェックを強めるため、金融庁がルール作りを進めている。西武鉄道やカネボウの不祥事を受けた動きで、財務に影響を及ぼす経営上の課題について監査法人が幅広く点検する仕組みを導入する。最短で三年後には上場企業に新ルールが適用される見通しだ。
「経営上の課題について監査法人が」チェックしたり、「経営の舞台裏」を開示したり、日経だけ読んでいると、いったい有価証券報告書(有報)含めた開示資料は、いったいどこに行ってしまうのか、わけがわからなくなってしまいます。注意深く読まないとミスリーディングになってしまいますね。
まず、「舞台裏」の開示についてです。開示されないからこその「舞台裏」であって、開示されてしまってはそれはすでに「舞台裏」ではないのではないか、という屁理屈のひとつも言いたくなります。知的資産情報については開示不足ではないか、との指摘は確かによく耳に入ってきますが、その「知的資産」の内容が、客単価とかクレーム件数となると、「知的資産」の範疇からは大きくはみ出ているような気がするのですが(それとも私が「知的資産」を狭く解釈しすぎ?)。どちらにせよ「知的資産」→「舞台裏」という感覚がよく分かりません。
それでも、投資家が望む情報がなかなか入手しづらいという事実があるのであれば、METIが音頭とってひな形作るのもいいかもしれません。ただ47thさんのところにあるように「企業の経営に関する情報の開示は、企業側にしてみれば知らせたい情報を市場等(のステークホールダー)に伝えることによって、その将来的な価値創造の可能性についてより高い評価を得ることにあり、」と言われると、そうかな?と思うわけで。なぜなら、企業というものは自分が伝えたい情報はあの手この手を使って開示するのがいわば本能だと思うからです。
私の分野で行けば、一時期pro-forma損益というのが流行りました。リストラ費用を除いたEPSとか、いろいろ前提条件をつけた数値ですね。
日本では通常投資判断に使用される指標に経常利益というものがありますが、これは最終利益から特別利益、特別損失を控除したものです。一時のリストラ損失などは通常特別損失に分類されるため、経常利益という指標に含まれないことになります。
一方、米国基準ではそもそも特別損益という概念がありません。いや、正確に言うと異常損益(extraordinary loss/profit)という概念がありますが、この範囲は非常に限定されており、通常使用されません。例えば、こちらで見られるとおり、2001年の同時多発テロ関係の損失すらextraordinaryと認められないとの結論が出ていますので、じゃあ何がいったいextraordinaryかというと該当するものなどほとんどないということになります。
これでは、当然一時のリストラ費用などextraordinaryとなるわけはなく、通常の損益に含めて表示しなければなりません。それでは投資家に一時的損益悪化の誤解を与えるということで、pro-forma損益、つまり一定の仮定のもとに置いた数値の開示を行ったわけです。もちろん、通常の会計基準に従った損益は開示するのですが、それをことさら目立たないように、そしてプレスリリース等では主にpro-forma損益についてのみ触れるという実務が行われていたようです。
エンロン破綻→SOX法制定という流れの中、この問題も槍玉に上がり、2003年1月のSECのルールにより、GAAPに従わない数値を開示する場合は必ずreconciliationを付すように定められました。
このルール対応で個人的にいろいろ大変だったため(謎)、例示が長くなってしまいましたが、要は企業が開示したい情報については別にMETIの助けを借りんでも企業は何とかして開示しようとするものだ、というのが言いたかったわけで、自分の伝えたい情報が投資家に伝わらないと嘆いている企業があれば、それは単にPRIRの巧拙の問題に過ぎないのではないでしょうか?そして伝えたい情報の偏りを修正するのが規制当局の役割ではないでしょうか?というのが私の疑問なわけです。
長くなってしまったので、もう一つのネタについては別途。
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