企業会計基準適用指針公開草案第15号 「その他の複合金融商品(払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品)に関する会計処理(案)」の公表
企業会計基準適用指針公開草案第15号
「その他の複合金融商品(払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品)に関する会計処理(案)」の公表
企業会計基準委員会(以下「当委員会」という。)では、企業会計審議会から公表された「金融商品に係る会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)及び日本公認会計士協会から公表された「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計実務指針」という。)が定めるその他の複合金融商品の会計処理について、公表時には想定されていなかった物価連動国債などに対しては必ずしも適当ではないのではないかという意見を踏まえ、現行の金融商品会計基準の下で、その他の複合金融商品を適用する際の指針について見直しを検討してまいりました。 今般、平成18年1月24日の第97回企業会計基準委員会において、標記の適用指針の公開草案(以下「本公開草案」という。)の公表を承認しました。
1/27公表の公開草案の3本目です。
要は
27.前項で示した物価連動国債について、組込デリバティブのリスクが現物の金融資産の当初元本に及ぶ可能性が低いといえるものとして区分処理せず、その他有価証券とした場合には、他の債券と同様に、まず償却原価法を適用し、その上で償却原価と時価との差額を評価差額として処理する(金融商品会計実務指針第74項)
これを一般論で言いたいがためにずいぶん回りくどく、かつ難解な基準になっているようです。いろいろな記事の受け売りによると、物価連動国債を購入した場合の会計処理が複雑で、それが販売不振の原因となっていとの指摘を受け、企業会計基準委員会が改めてあるべき処理を検討して出てきた公開草案であるようです。
そもそも、物価連動国債が属すると思われる「組み込みデリバティブ」の会計処理について、「金融商品会計に係る実務指針」の規定では、以下の条件すべてを満たす場合については、元の金融商品(この例では国債部分)とデリバティブ部分(この例では物価連動部分)につき区分処理することになっています(同188項)
①組み込みデリバティブのリスクが現物の金融資産または金融負債に及ぶ可能性があること。
②組込デリバティブと同一条件の独立したデリバティブが、デリバティブの特徴を満たすこと
③当該複合金融商品について、時価の変動による評価差額が当期の損益に反映されないこと。
そして、組込デリバティブを区別して測定することができない場合には、全体で時価評価し評価差額を当期の損益に計上することになっています(同194項)
これらの細かい定義は長くなるので省きますが、物価変動国債の場合は、物価が変動することにより元本が変動する可能性があるわけですから①の要件は満たします。物価連動という一定の指数に基づいて上下するので、デリバティブとしての要件も満たします。そして、トレーディング目的で保有していなければ評価差額を当期の損益として計上する必要がありませんので、その場合は③の条件を満たします。
こうして①~③の条件が満たされた場合、デリバティブの部分を区分して処理するか、あるいは一括で時価評価し時価変動額を損益として処理するかどちらの選択を迫られるわけです。
この会計処理に関し、「区分は不可能だし実態には合っていない」、「長期保有を目的としているのに、毎期時価評価損益が発生するのはおかしい」などという批判が上がっているようです。
こうした現在の基準に対して、この公開草案ではどのような手当てがなされたかということですが、
現在の基準では、預金、債券等に金利に係るデリバティブが組み込まれた場合、現物のの経済的性格とリスクが密接な関係にあるため、通常デリバティブのリスクが現物に及ぶ可能性はない、と考えられていますが(同191項)それでも元本が毀損する可能性が少しでもあれば、リスクが現物に及ぶ可能性ありと判断されてしまいます(同)。
そこで、まず「金利に係るデリバティブが組み込まれた場合」の「金利」に「物価指数」もその範疇に加えた上で、次の文言を挿入しました。
ただし、契約上、当初元本を毀損する可能性があっても、組込デリバティブのリスクが現物の金融資産又は金融負債の当初元本に及ぶ可能性が低いといえるものについては、組込デリバティブのリスクが現物の金融資産又は金融負債におよぶ可能性はないものとして取り扱う(公開草案第6項)。
そして、物価連動国債については
この際、政府によって平成16年から発行されている物価連動国債(10年債)は、これまでの消費者物価指数の動向等を踏まえ、一般に、組込デリバティブのリスクが当初元本に及ぶ可能性は低いと考えられる(同26項)
と結論付けています。
と、いろいろ理論構成しているのですが、最終的には
「まあ、物価は安定しているんだから、いいじゃないか」
と、言っているようにも見えます。
なお、日経等の報道によりますと、米国では区分処理する必要がない、とされているようですが、大和証券吉井氏稿では、
・区分処理の条件として「保有者が、当初計上された投資額の実質的に全額を回収しないであろうような方法により、契約上決済されうること」とあること。
・「米国のインフレ債券は、わが国の物価連動国債と異なり、契約上の元本が額面を下回ることのないスキームとなっている模様」
とのことです。「決済されうる」のは「うる」なので、米国基準につき本当に報道どおりなのかはやや疑問です(現在原文に当たれない環境なので正確なことはいえませんが)。
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