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【読書】将棋の子 大崎善生

自分の中では高橋和女流二段の夫として有名な大崎氏。「パイロットフィッシュ」「アジアンタムブルー」は読んでいたが、将棋がらみの本は初めて。もともと「聖の青春」で有名となった方だが、村山聖のエピソードは多少将棋に関心があれば知っている話なので、あえて読むまでもないと思っていたためであろう。

加えて「パイロットフィッシュ」などの作品。春樹チルドレンの一員とも呼ばれているらしい彼の文体と「元将棋世界編集長」という肩書きがどうも一致しなかったのである。「将棋世界」は私のガキの頃の愛読雑誌。読んでいたわりには一向に強くならなかったものの、観戦記を読むのは好きだった。もっとも本書によると、大崎氏が将棋世界編集部に配属されたのは昭和59年。丁度私が読まなくなった頃から。私とはすれ違いのようである。

この作品にたまたま引っかかったのは、図書館の閉館時間ぎりぎりに窓口に行こうとしたらふと目に留まった。それだけのことである。最近「将棋」というキーワードに敏感だということもあるか。

そんな本書、自分の中では中倉彰子女流初段の夫として有名な(こんなんばっかり)中座真現五段の奇跡的な四段昇段シーンから始まる。まったくの他力本願での昇段。運命の女神が微笑んだ。そして同日、運命の女神に背かれた者が四人。愛達治、長田博道、渡辺恭位、瀬川晶司。その9年後、新たなドラマが生まれるが、そのようなことは当然作者も思いもよらぬことである。

この明暗を描いた後、旧知の仲でプロ棋士養成機関である奨励会を脱落した成田英二。彼の人生を中心に奨励会に絡むさまざまな人生のコラボレーションを描く。それは常に日当たりのいい高速道路の大渋滞を突っ走っていった羽生世代ではなく、高速道路から弾き飛ばされた数々の人生・・・

いや、単に弾き飛ばされているだけではない。司法書士となるもの、ブラジルから突然名が聞こえて来るもの。そして長い間底辺を這うも、立ち直りのきっかけを見せる成田。陳腐な言葉だが、人生いろいろ。

そして、彼らを優しく見つめる著者自身についても、幼少の頃の成田とのエピソードがあり、それに自らの人生をもからませる。そして成田との再会後将棋連盟退職。「将棋世界」では書かれることのなかった彼らの人生を書くために

大崎氏が将棋連盟に籍を置いた20年弱の期間。それはまたとない人間ウォッチの機会であったことを知る。「元将棋世界編集長」と「春樹チルドレン」のつながりの一端がやっと少し垣間見えたような気がした。

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