見かけの業績、株価かく乱(2)
見かけの業績、株価かく乱(2)
旭化成株をめぐり、誤解に基づく株価の波乱があったのは九日から十日にかけてのことだ。・・・
誤解の元は「年金数理差異の償却」。これまでは発生した翌期に一括計上していた差異を、今期から十年間での定額償却に変更。結果として、事前の予想で二百億円程度になると見られていた年金による利益上乗せ効果が、実際には二十五億円にとどまってしまったのだ
以前取り上げましたが、旭化成は保険数理上の差異の償却年数を1年でやってきました。これは2003年3月期から変更した処理です(同期の決算短信のp19参照)
今回の変更につき、決算短信(p26)では以下のように書かれています。
当社及び一部の国内連結子会社は、従来、退職給付会計における数理計算上の差異をその発生の翌連結会計年度に1年間で費用処理してきた。しかし、当初想定した範囲を上回る国内外の株式市況の高騰、下落などを背景に、毎期多額の年金資産運用の利差損益(数理計算上の差異)が発生した。数理計算上の差異を1年間で費用処理することにより、営業費用に多額の数理計算上の差異に係る費用処理額が含まれることとなった結果、営業利益、経常利益、当期純利益の変動要因の相当部分を数理計算上の差異に係る費用処理額が占める状態になっている。このため、利益水準の変化が必ずしも事業業績の動向・評価を端的に表さないこととなり、表示の明瞭性から望ましくない状況を招いている。
また、数理計算上の差異を長期間で費用処理する方法を採用することにより、株式市況の高騰、下落に起因する年金資産運用の利差益、利差損を長期的に相殺する効果が生じるが、近年の年金資産運用の利差損益(数理計算上の差異)の発生状況を鑑みると、数理計算上の差異を長期安定的に費用処理していく本来の退職給付会計の考え方に、より適合する経済環境になってきている。
前段は何を今更、という感じです。株式市況が想定の範囲で推定すれば苦労はありませんて。だからこそ、遅延認識という会計処理を認めているわけでして。3年で会計処理を元に戻す理由としては極めて弱いかと。
後段も同様。「より適合する経済環境」とはいったい何なのか。株価が乱高下する時代になったということでしょうか?説明が欲しいところですな。意地悪ですが。
まあ、過去の過ちを正したのだ、と前向きに評価しましょう。
もっとも以前の記事で書いたとおり、国際的には保険数理上の差異の遅延認識というものは廃止される方向で検討が進んでいるようです。現在の有価証券評価損益と同様の扱いとなる(実際IFRSではその処理もすでに認めています)というのが最終的な落としどころであると思っているのですが、こうなったら日本の資本の部、おっと失礼、「純資産の部」に多大な影響を与えるでしょうね。
(written on May 28)
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Comments
>現在の有価証券評価損益と同様の扱いとなる(実際IFRSではその処理もすでに認めています)というのが最終的な落としどころであると思っているのですが
個人的には同感なのですが若干の補足を。
正確に言うと、IFRSで認めた選択肢はいわゆるリサイクリングがないので、貸借対照表上で即時認識された数理計算上の差異は損益計算書には永久に反映されないことになり、有価証券評価損益の扱いとは損益計算書上の影響が異なります。
(そこで、実務対応報告第18号では、在外子会社がそのような会計方針を採用している場合には、日本基準の基本的な考え方と合わないので修正せよ、ということになっているわけです。)
FASBで出ている公開草案も、数理計算上の差異を貸借対照表上で即時認識することを提案していますが、こちらは利益のリサイクリングを前提としているので、損益計算書上は遅延認識
ということになっているようです。これが日本基準の将来的な落としどころになる可能性は否定できないと思っています。
Posted by: MO | 2006.05.29 12:54 AM
MOさん、いつもすみません。
FASBの公開草案のこと、すっかり頭から抜けておりました。
今まで見てくるとFASBとIASCではリサイクルに対する考え方に隔たりがあるように感じます。両者のコンバージェンスでは一番のネックになるところではないでしょうか?
Posted by: KOH | 2006.05.30 05:54 AM