松坂選手の移籍金は臨時報告書提出事由か?
日本球界のエースが過去最高の評価を受けて海を渡る――。15日、ポスティングシステム(入札制度)で大リーグ移籍を目指していた松坂大輔投手(26)との交渉権が、ボストン・レッドソックスに約60億円で落札されたことが明らかになった。予想以上の高額に、西武は驚き、レッドソックスは大きな期待をにじませた。
$51,111,111という金額だそうで。何ですかね、この細かさは。一瞬源泉税などという言葉が頭に浮かびましたが、全く関係ないですね。
しかし、60億円。
約60億円の使い道については、「選手の補強やファンのために使いたいと思っている」と話した。
と書かれていますし、日経夕刊では「全額を補強費やファンのために使う」とかかれており、ろじゃあさんが心配しています親会社の赤字補填という話は表向きには出ていないようです。
とはいえ、西武ホールディングス(西武HD)の連結決算にとっては決して小さくない数値かと思います。
この移籍金の会計上の扱いについて、ろじゃあさんのところやbewaadさんのところでいろいろと議論があったようです。すっかり見逃していました。リアルで参加できなかったのが残念。
で、大方の結論として、松坂選手の資産価値は当然簿外資産でしょうから(契約金は償却しきっているという前提)、60億円まるまる何らかの利益として計上するというところに落ち着いているかと思います。私も同意見です。
ここで気になるのは、この60億円の(特別)利益が発生することにより、その開示の必要があるのではないか?ということです。証券取引法上、臨時報告書の制度があり、投資者保護のため必要と認められる事項についての開示が求められています。
西武HDは18年2月に設立された会社で、当然非上場です。開示の必要はないではないか、と考える向きもあるかもしれませんが、もと上場会社であった西武鉄道などの株式移転により設立された会社ですので、個人株主が多数存在します。12,000人ほどの個人株主を抱える企業です。有価証券の所有者の数が500を超える企業はたとえ非上場でも有価証券報告書を提出する必要があり、西武HDは第一期より有価証券報告書を提出しています。
そして、有価証券報告書を提出している会社は、必要とされるときに臨時報告書を提出する義務があります。臨時報告書の提出用件は多岐にわたっていますが、この中に「連結会社の財政状態及び経営成績に著しい影響を与える事象が発生した場合」というのがあります。
「著しい影響」の範囲ですが、「当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の百分の三以上かつ最近五連結会計年度に係る連結財務諸表における当期純利益の平均額の百分の二十以上に相当する額になる事象」と定義されています。
ではこの60億という金額のレベルですが、西武HDはできて1年も経っていない会社であり、しかも連結財務諸表はこれから作成するという時期であるので、後段の定義の判定は不可能になります。この場合そもそも対象から外れるのか、前段の条件だけで判断するのかはよくわかりませんが、少なくとも純資産に多額な影響を与えるのであれば開示が求められると考えるのが自然かと思います。
それでは前段の条件ですが、西武HDの18/3末の連結純資産は1,576億円です。百分の三以上は47億円以上ということになります。60億円はそれ以上ですから、一見開示対象になりそうです。しかしながら、純資産に影響を与える額は税引後利益ベースであり、60億円に税効果を加味する必要があります。
通常の会社であれば、税効果を考慮するとおおむね6割の数値になりますので、約36億円となり、これをベースにすると開示対象とはならないことになります。これ以上は開示情報がないので推測で物を言うしかないのですが、株式会社西武ライオンズとして法人税の処理をどうするかという問題にかかってくるかと思います。
巷で報道されているところによると、西武ライオンズは万年赤字体質であり、親会社の補填に頼っているとか。したがってほとんど税金を払っていないのではないかと推測されます。繰越欠損金があるかどうかは補填のレベルにかかってきますが、潤沢な?欠損金がある場合は60億円に対しても税金を支払わなくてもいい場合もありうるかと思います。当然繰延税金資産など計上していないでしょうから、その場合は60億円丸丸損益に効いて来ます。
さすがにライオンズ1社で60億円の欠損金はでかすぎるような気もしますが、一方で連結全体で繰越欠損金に係る繰延税金資産は約500億あり(ただしほとんどが評価性引当金計上済み)、税前の繰越欠損金は800億円以上あることになります。連結でこれだけの欠損金を抱えながら60億円に対してまじめに税金を支払うことはかなりもったいないので、何らかの節税策を講じてくるでしょう。昔とった杵柄でそういう知恵を持った人が多そうですし(笑)。もっとも振って沸いたような話なので、現時点で緻密なタックスプランニングがあるとは考えにくいのですが。
最後は推測になりましたので、実際に臨時報告書が提出されるかどうかはわかりません。少なくとも現時点では提出されていませんし、西武HDのウェブサイトでもプレスリリースはありません。まあ法定開示にはあたらないにしても、連結決算上それなりのインパクトがあることは疑いがないことですので、多くの個人株主をもつ企業として何らかのディスクロージャーがあってもしかるべきではないかと思いますがいかがなものでしょうか?
The comments to this entry are closed.
Comments