ダイレクトレポーティングは不採用って?
前エントリで紹介した、企業会計審議会内部統制部会の資料ですが、あっという間に多くの方が目をつけており、toshiさんのところでは既に活発な議論がされています。しかし皆さん読むのが早い。お忙しい方々なはずなのに。100pもあると集中力のない私などは職場でも家でも読めず、スタバに場所を移して読みましたが、こちらはひそかに値上げされていたことに気づき・・・という今日この頃です。
そしてtoshiさんのところでもどなたかがコメントされていましたが、100pもある割には面白くない(笑)。具体的な実務指針を期待していたのですが、あまり具体的ではありませんね。教科書の延長線上みたいな書き方であり、これが出たからといって、実務対応ができるかというとできないでしょうね。結局現在進行しているSOX法の実務が下敷きになって動き出す、ということになるのでしょう。
まあ、考えてみれば実務に役立つような実務指針は100pというレベルではぜんぜん済まないでしょうから、そんなこと期待すること自体が間違っていたというべきでしょうか。
さて、実務指針でどのような記載になっているかを個人的に注目していた部分としてダイレクトレーティングの不採用のところがあります。ダイレクトレポーティング(DR)を不採用したことで企業側の負担をかなり軽くできる、というのがこの日本版内部統制の一つの売りだったはずです。
そして、このDRの不採用については識者からの批判があるわけで、やや古いですが9/30号の東洋経済の「専門家4氏に聞く日本版SOX論」という特集の中で2名がDRの不採用について手厳しい批判をしております。
まあ、私なんかよりはるかに実務に精通している方々だと思いますので、おそらくそうなのだろうとは思うのですが、どうも私にはそれがなぜ企業の負担軽減に繋がるのか、いまいちピンと来ていない部分があります。
DRというのは監査人が自ら企業の内部統制を評価して報告書に評価を記載することです。そして、日本ではそのような報告書の形を取らず、経営者の内部統制の評価について意見を表明すという形式をとるといわれています。
ありていに言えば、米国の内部統制監査報告書は「当該企業の内部統制は有効に機能している」という報告書になり、日本のそれは「当該企業の内部統制は有効に機能しているという経営者の意見は正しいと認められる」という報告書になります。
という形式の違いはわかるのですが、では経営者の報告書の適正性をどう判断するかというと、報告書を穴があくほど見つめたからといって適性性がわかるはずもなく、形式的に経営者にインタビューしてはい終わり、というのでは通常監査とは呼びません。仮にも監査と呼ぶからには監査人が自らサンプルを抽出して内部統制の有効性を判断する必要があります。
となると、行うべきことというのはDRを採用したか不採用かでいったいどこが違うのか、というのがよくわからないのです。サンプル抽出して実査するというのは同じですから。
そう考えると、DRであるかないかというのは直接企業の負担軽減とはあまり関係ないような気がします。関係あるのは経営者の報告書の適正性を監査するのにどこまでの厳密な手続きを求めるか、ひいては監査基準でどれくらいの事を定めるか、これがわからないと企業の負担軽減といは言えない、と思っていたわけです。
そういう意味で、今回の実務指針でそのあたりがどのような記載になっているか注目していました。では今回どう書いてあったか、については力尽きましたのでまた次回とします。
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Comments
ごぶさたしております。
TBありがとうございました。
このダイレクト・レポーティング不採用の点につきましては、会計士以外の人間にはますますわからないところです。日本の監査制度は「意見表明に関する監査」とある本で読みましたが、そうすると財務諸表監査についても、意見表明についての監査でしょうからダイレクト・レポーティングを採用していない、ということでいいのかどうか、そのあたりはどう整理して考えればいいのか、いろいろと疑問に思うところがあります。
また、続編を楽しみにしております。
Posted by: toshi | 2006.11.10 11:54 AM
こんにちは。米国で実務についている会計士ですが、ダイレクトレポーティングの有無は、監査上は大きな手間の違いになると思っていました。対応する企業側も同様かとおもっております。
日本の実施基準案を読んでいない(というか、読む前に情報収集をしているところで立ち寄らせていただきました)で勝手なことを言うのは何ですが、私のイメージとしては、
日本:クライアントの「内部統制運用状況のテスト結果を評価する」(具体的にはテスト結果を入手し、一部をreperform、その際にはサンプル数はさほど多くなくても良い)
米国:上記を実施した上で、さらに監査人自ら、内部統制の運用状況をテストする。(具体的にはクライアント同様、会社のコントロールからサンプルを抽出する。その際にはサンプル数・サンプリング方法はPCAOB Audit Standard 2に基づいて決定する必要がある)
という理解だったのですが、DR不採用でも米国同様の監査人自らの検証手続が必要になるのでしょうかね?このあたりはさらに追加の指針が出るのでしょうか。
ただ実際のところ、「テスト」よりも、それ以前に「コントロール・デザインの有効性」を監査するほうが監査人にとっては責任が大きいところで(テストの実施は言い方悪いんですが、マンパワーで解決しますし)そういう意味では、結局、手間が多少違うかもしれないが負担の大きさはあまり変わらないだろう、とも思います。
とりあえず、私は積読になっているJICPAジャーナルにがんばって目を通してみます(笑
Posted by: lat37n | 2006.11.23 06:40 AM