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IFRSと会社法計算規定

旬刊経理情報(2009/4/1)に「IFRS適用に伴う会社法計算規定の論点分析」というあずさ監査法人前田さんの議論が紹介されています。なんとも気が早い、とも思うのですが、いずれは考えなければならない問題ですので、ここで思いつくアイテムを1回整理しておくのは有意義なことではないかと思います。

会社法計算書類の世界と、金商法財務諸表の世界の距離感はだいぶ狭まり、会社法での計算の規定は多くを金商法の世界に委ねています。また、その一方で、計算書類規則では

第百二十六条  損益計算書等には、包括利益に関する事項を表示することができる。

日本の会計基準では取り入れられていない「包括利益」に関する条文をいち早く取り込んでしまう、というコンバージェンスプロジェクトも真っ青のずいぶん大胆なことをしでかしています。このあたりの調整が今後どうなるか注目しています。

前田稿では、以下に分けて論点整理をしています(番号は引用者が付加)
① 連結計算書類への影響
② 計算書類への影響
③ 過年度遡及修正
④ 負債と資本の区分
⑤ 財務諸表の表示

①②について、IFRSの強制適用であればまだしも、任意適用であれば当然配慮が必要となってきます。金商法に基づく連結財務諸表は不要でも会社法に基づく連結計算書類のみ日本基準で作成したものが必要となると、コストの関係から任意適用へのインセンティブがそがれることが確実です。現在米国基準適用の会社については、会社計算規則において一定の配慮がされているので、IFRSについても同様の配慮が必要になってくるでしょう。また、分配可能額の算定についても連結配当規制を適用している会社について同様の配慮が必要となってくるでしょう。

③④⑤については各論の話です。過年度遡及修正については、わが国でも公開草案がじき公表されるとのことですが、単年度の計算書類について毎年株主総会が承認する、という発想から来ている会社法にしてみれば、過去の計算書類を総会を通さないで修正するという手続きはそもそも相容れないものと考えられます。過年度に誤りがあった計算書類であればともかく、会計方針の変更や会計基準の制定により過年度修正が起きた場合は、誤りがない計算書類を修正するということになりますので、その辺の理論構成が難しくなってくるものと思われます。
負債と資本の区別については、現在IFRSから予備的見解が出ています。ここでは「基本所有アプローチ」という概念が提唱されています。これは最終的に残った残余財産に対する請求権の有無により負債と資本の区別をしようというものです。これによると、新株予約権などは、残余財産に対する請求権を伴わないので負債と判断されます。ストックオプションは負債か資本かあるいは中間項目かといったことでずいぶんもめた挙句に、「株主資本」と「純資産」を区別するという独自の形式を採用したわが国にとってはまた大きな方向転換を迫られる内容です。これは会社法だけの問題ではありませんが。
財務諸表の表示については、現状においても上記の包括利益の扱いなど、会社法上不明確なところがあることに加え、これも現在公表されている予備的見解ではいろいろと過激な提案が行われており、こちらの対応も迫られるということです。まあこれも会社法に限った問題ではありませんが。

最後に筆者は上場企業のディスクロージャー制度についての私見ということで結んでいます。はっきりと筆者は述べてはいませんが、ひと言で言えば「制度を統一してくれ」ということに尽きるかと思います。かなり歩み寄ったとはいえ、会社法と金商法といった二重の開示制度があるのは実務にとって負担であるのは明らかで、情報利用者によるニーズがそれほどあるのかどうか、IFRSの導入を契機として、ぜひ検討していただきたい項目であると思います。

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