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留保金を雇用対策に?

「ビジネス法務の部屋」

:私が疑問に思いますのは、これほど世間で「企業価値」が話題となっている今こそ、「継続事業のお値段とはこういったもの」というMAご専門の方々の意見が 日本中に広まるのではないか、(もしくは国民が耳を傾けるのではないか)と期待するのでありますが、ほとんど聞こえないのであります。

私もそう思っており、鳩山総務相が何を言っているのか、そしてこのかんぽ問題の論点が未だに理解できておりません。さりとて、この問題に口を挟むには役者不足ですし、ある程度の反論の記事も出始めているようにも見えるので、私はもっと単純な分野にて。


http://www.asahi.com/politics/update/0109/TKY200901090127.html
:また、製造業の派遣切りも論議になり、与謝野経済財政相は「人を安く使おうという傾向が企業に見られるのは残念だ。何兆円の内部留保を持っているところが職を簡単に奪うのはどうか」と述べ、トヨタなどの大企業を念頭に雇用不安を招いている企業側の姿勢を批判した。

いつの間にやら財務大臣にまでなってしまった与謝野氏のこの発言ですが、経理的には違和感ありありです。政治家の方々は内部留保というと、金塊でも隠し持っているようなイメージでも持っておられるのかもしれませんが、もちろん内部留保というのはそういうものでありません。
この文脈で内部留保が語られる場合、金額が多岐に渡っており、定義もあいまいなことが多いです。が、おそらく「利益剰余金」と同値と捉えている方が多いように見えますので、まずその前提で話をします。経理用語としての利益剰余金は大雑把に言うと以下の概念でしかありません。

(当期末累積利益)-(既配当金額)

つまり、儲かったけど「まだ」株主に配当していない金額、が利益剰余金です。たとえその金が機械装置や棚卸資産に代わっていたとしてもそれは利益剰余金としてカウントされたままです。あくまであといくら配当できるかを示す概念に過ぎません。株主は会社に配当を要求する権利がありますから、こうした機械装置や棚卸資産を売り払ってまで配当を要求する権利があるわけです。内部留保を取り崩して雇用を確保しろという議論は、極端に言えば会社の資産を売り払って従業員に分配しろという議論に等しいわけです。まあそれは言い過ぎにしても、現在の内部留保は事業の前提となっており、内部留保を直接利用しようとした場合、一部の事業の継続に影響してくるわけです。まずこの点を理解していらっしゃらない議論が大部分のようにお見受けします。

もう少し進んだ議論では、利益剰余金があるのだから、まだ会社が潰れるまでは行かないであろう、という議論です。つまり雇用維持をした場合はこれからの年度でも人件費がかさんでくる。そうした場合は、損失が膨らむ。その結果として利益剰余金が減少するが、その利益剰余金はまだ枯渇するまでは至っていないのだから、それまでは雇用維持を優先すればいいのではないか、という意見です。こういう議論であればある程度理解できます。

しかしながら、これとて資金繰りが続くことが前提となっています。人件費減少を織り込んだ決算でもすでに今期から大企業での大幅赤字決算が予想されている中、必要なキャッシュが今後とも調達できるとは限りません。今後の配当余力が不明で利払いもどうか分からない企業には銀行も投資家も金を出してはくれません。利益剰余金があったところで、その分キャッシュが無尽蔵に出てくるわけではないのです。

現在の派遣切りの実態、いや、正社員にまでそれが忍び寄っていることについての賛否についてここで述べません。しかしながら、利益剰余金の厚みがあるから雇用吸収能力がある、といった単純な見方には、経理の立場からして組するわけには行かないのです。

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Comments

どうも、ご無沙汰しております。「風説流れ旅」のtoshiです。2年ぶりですね。

いろいろとたいへんなご様子ですが、またKOHさんのブログが拝見できてうれしいです。今後とも(ぼちぼちでも結構ですので)更新を楽しみにしております。最近ちょっと会計ネタが少ないですが、またときどき拙ブログにも遊びにきてください。

Posted by: toshi | 2009.03.05 03:02 AM

toshiさん、ごぶさたしています。
試運転中なのに、見つかってしまいましたね。

言われずともtoshiさんのサイトは常に巡回しております。最近はすっかり格調が高くなってしまい「風説流れ旅」みたいなアホな話がしにくくなり残念に思っています(笑)

こちらはマイペースでやっていきますので、今後ともよろしくお願いします。

Posted by: KOH | 2009.03.06 01:05 AM

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