我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号「収益」に照らした考察-を読む
我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号「収益」に照らした考察-
7月9日に出ていながら、多忙を言い訳に夏休みの宿題にしていましたが、やっと13日に読了。LAT37N"さんやdancing-ufoさん
ご推薦だけあってなかなかの力作です。
とくにLAT37Nさんの日本版SAB104とはまさに言い得て妙。全体が約150pなのに、本文が52pで付録が残り100pという構成がまたいいですね。この付録部分がいろいろな業種における収益認識の考え方と、それがIAS18号を適用するとどうなるか、ということを考察していてなかなか興味深い。いろいろな業種を見ておられる監査法人勤務の会計士さんならある程度常識のところもあるのかもしれませんが、一介の一企業の経理マンにとっては、貴重な資料と言えます。
この収益に関する部分に限って焦点を当ててみますと、日本は細則主義でIFRSは原則主義だという「常識」を字面通りには当てはめることはできませんね。日本においてもメインでは「実現主義」であり、「財貨の移転又は役務の提供の完了」と「対価の成立」がその要件とされています。基本的には収益の認識については詳細な基準は日本には存在しませんので(例外はいっぱいありますがとりあえず置いておいて)、その二点に立ち戻ってそれぞれの取引について収益の認識時点を考えるというのは、今後の実務者の考える指針としても役に立つ研究報告であるといえましょう。
ただし、この研究報告の位置づけは難しいですよね。「実現主義」というのは企業会計原則以来続く収益の認識規準ですから、今会計方針を変えることは、以前の会計処理が誤っていたと捉えかねられません。とくに一般から意見募集をするといったデュープロセスを踏んでないこの研究報告によって会計処理を変えるのは企業にとっては抵抗あるでしょうね。でも、IAS18号にとらわれずそもそも実現主義の適用においても、現状の常識を覆しかねないことが書いてあるこの研究報告。どう扱うのでしょか。
一応研究報告(しかもご丁寧に「中間報告」とわざわざ記してある)ですので、会計基準の一部分を構成するものではない。したがって、強制力のあるものではありません。それは研究報告の中に明確に書いてあります(p4 本研究報告の位置付け)。したがって、「会計方針の変更」になるわけですが、それには正当な理由が必要。ただ「『適時性』を判断する上で本研究報告の公表が背景の1つとなるのではないかとの意見がある」とまた微妙なことが書いてあります。小賢しいですなぁ(笑)
ともあれ、微笑ましい誤植もそこかしこに見られるこの報告。かなり突貫工事で作られたことが伺えます。今後の動向に注目です。ネタがなくなったら個別の論点についても書いて見ましょうかね。
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