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引当金各論-訴訟損失引当金

先週末、某勉強会での発表が終了しまして、著しく更新のモチベーションが衰えているのですが、多少ネタが溜まりましたので、少しずつ放出していきたいと思います。

今回は訴訟損失引当金を取り上げます。

訴訟の厄介なところは、先々どうなるかが全くわからないところであり、また少なくとも1社だけの経験値では、たとえ負けたとしても金額を見積もることが困難であることにあります。

日本基準では例によって注解18に従って考えることになります。過去の事象であり、損失要因であることは疑いないので、残りの要件、すなわち発生の可能性が高く、合理的に見積もれるか、ということで判断することになります。発生の可能性が高いかどうかは訴訟も最後の方にならなければなかなかわからず、たとえ最初の方で部が悪くても最初から負けるつもりで訴訟を戦うわけではありませんから、引当金の計上は難儀を極めるかと思います。また、たとえ負けを見越していたとしても、金額が合理的に見積もれない場合は引当金が計上できないことになります。例に出すのは甚だ不謹慎なのですが、数年前に大事故を起こした西日本旅客鉄道(JR西日本)においては引当金を計上せず、下記の注記をすることがここ何年か続いています。

 今後、福知山線列車事故に伴う補償などの支出が見込まれますが、これらについては、現時点では金額等を合理的に見積もることは困難であります。

この状況は現行IFRSでもほとんど変わらないと考えられます。発生の可能性が高く、金額が合理的に見積もることができる、という要件はIFRSでも形式的には変わりません。もっとも「発生の可能性が高い」というレベルは日本基準よりIFRSのほうがハードルは低いと考えられますので、この部分での差異は出てくるかもしれません。

ただ、IFRS37の公開草案(ED)では若干論点が出てきます。EDでは蓋然性要件、すなわち「発生の可能性が高く」という要件の廃止を提案しています。債務であれば、発生の可能性の高さにかかわらず計上し、発生の可能性の高さについては測定金額によって反映する、というのがEDの考え方です。したがって、訴訟を起こされた場合、少しでも負ける可能性があれば(というより100%勝訴という場合も稀かと思いますので)引当計上の可能性を検討しなければないのでは、という点です。

この論点については2010年4月にIFRSがStaff Paperというものを発行しています。Recognising Liabilities Arising from Lawsuits
と名付けられたこのPaperでは

6. At present, many preparers of financial statements focus on criterion 2 when judging whether to recognise a liability for a lawsuit.
(注:criterion 2 = It is probable (more likely than not) that an outflow of resources will be required to settle the obligation.)

ということで現在では発生の可能性の高さを基準で引当金を認識することが多いことを認めていますが、


4.Removing criterion 2 would not require entities to recognise liabilities for all lawsuits. This is because the lawsuits might not satisfy the other recognition criteria. In particular, the existence of a lawsuit does not necessarily mean that the entity has a present obligation (criterion 1 ). An entity has a present obligation only if, and to the extent that, the claim against it is valid.

と、たとえ発生の可能性が高い、という要件を廃止したからといって全ての訴訟案件につき引当金を計上する必要があるわけではないとしています。IAS37の引当金計上要件にはまず、現在の債務であることが要求されることは今まで見てきたとおりですが、訴訟についてはその訴えが正当であって初めて現在の債務があるのだ、と判断するということになるようです。このStaff Paperによれば、EDが基準化したことによっても現行IFRSの訴訟引当金計上が追加計上になることは想定していないようです。

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引当金各論-有給休暇引当金

さて、IFRS強制適用でにわかに注目を浴びている有給休暇引当金です。

論点整理では「企業と従業員との間の契約により、従業員が有給休暇を消化した場合にも対応する給与を企業が支払うこととなっている場合には、企業は、期末日時点で従業員が将来有給休暇を取る権利を有している部分について債務を負っている。このため、国際的な会計基準では負債に該当するとされている。」として、法的債務であるがゆえにIFRS等では引当の対象になるとしています。

ご承知の通り、日本ではこんなもの計上する実務はありません。何度か出ている通り、注解18では引当金の計上要件に法的債務であることは求められていません。逆に法的な債務であっても注解18の要件に当てはまらなければ負債の計上の必要はないわけです。注解18では計上対象を「将来の特定の費用または損失」としています。有給休暇を買い取る習慣がない日本の場合、有給休暇自体が「将来の特定の費用または損失」に当たるかと言われると首を捻らざるを得ないと思います。

しかしながら期末時点で有給休暇を繰り越す権利を持っている従業員が、たとえ期首から全く働かないで退職したとしても、会社は有給休暇日数に対応する部分については給与を支払う義務を持っています。このように考えると、たとえ有給休暇自体の買取義務がないとしても、実質的には買取義務があるのと同様の金銭負担が生じることになります。したがってそのような金銭負担が発生する可能性の範囲においては、期末日に債務があることは否定できないことになります。

てなことがIAS19のpara.13に記載されています.

Accumulating compensated absences are those that are carried forward and can be used in future periods if the current period’s entitlement is not used in full. Accumulating compensated absences may be either vesting (in other words, employees are entitled to a cash payment for unused entitlement on leaving the entity) or non-vesting (when employees are not entitled to a cash payment for unused entitlement on leaving). An obligation arises as employees render service that increases their entitlement to future compensated absences. The obligation exists, and is recognised, even if the compensated absences are non-vesting, although the possibility that employees may leave before they use an accumulated non-vesting entitlement affects the measurement of that obligation.

もう少し突っ込みたいところですが、時間ですので本日はこれまで。

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引当金各論-リストラクチャリング引当金

IAS37号では「Restructuring」という表題で比較的多くの項数を費やしています。この「Restructuring」がいわゆる「リストラ」と同義なのかどうかはまた議論がありそうな気がしますが、そこに立ち入るのも面倒なのでここでは単に「リストラ」の語を当てます。

このリストラ引当金。まず日本基準ですが、今まで何度か出てきているように、日本基準の引当では債務性は特に求められていません。発生の可能性の高い、将来の特定の損失であれば、金額が合理的に見積もれる範囲でリストラにかかる引当金が計上できることになります。

このブログ再開前に取り上げているケースが典型的な例になります。12月決算で、希望退職の募集が8月、退職が10月とかなり先のプランではありますが、この希望退職にかかる費用を特別損失として計上しています。相手勘定は明らかではありませんが、名目はともかく、リストラ引当金の性質を持つ負債になります。企業が宣言しているのだから発生な可能性は高く、募集人数もほぼ決まっているのだから合理的に見積もることができる、と判断したのかと思います。日本基準では注解18に示すこれらの要件が満たされればリストラに関する損失とそれにかかる引当金を計上することができます。

しかしながら、IFRSでは単純にそうはいかなくなります。IAS37号の引当金は現在の債務であることを求めていますのでその検証をする必要があります。少なくとも法的債務ではないので、推定的債務があるかどうかの検証ですが、

72 A constructive obligation to restructure arises only when an entity:
(a) has a detailed formal plan for the restructuring identifying at least:(略)
(b) has raised a valid expectation in those affected that it will carry out the restructuring by starting to implement that plan or announcing its main features to those affected by it.

と、(b)で関係者がリストラクチャリングの実行が確実であると考えるような場合、としており、その場合には

74.For a plan to be sufficient to give rise to a constructive obligation when communicated to those affected by it, its implementation needs to be planned to begin as soon as possible and to be completed in a timeframe that makes significant changes to the plan unlikely. If it is expected that there will be a long delay before the restructuring begins or that the restructuring will take an unreasonably long time, it is unlikely that the plan will raise a valid expectation on the part of others that the entity is at present committed to restructuring, because the timeframe allows opportunities for the entity to change its plans.

要は計画が変わらないように、さっさと実行することが必要だということです。12月時点での8月のプランが実務的にどのように扱われるかは定かではありませんが、計画を変更する時間は十分にありそうで、この規定からすると引当金の計上は難しいような気がします。

ところで、日本基準でも「退職給付会計に関するQ&A」 Q18では「従業員が早期退職金制度に応募し、かつ、当該金額が合理的に見積もられる時点で費用処理すべきです。」という規定があります。通常の希望退職では少なくとも募集時点ではなく、従業員が応募をして初めて費用に計上できることになります。ただ、これが事業構造改革を絡めた早期退職の費用となると、その実行可能性がより高まることから、募集前でも引当金を計上する実務が行われているようです。

IAS37の公開草案ではそのあたりに踏み込んでいまして、

61 An entity shall recognise a non-financial liability for a cost associated with a restructuring only when the definition of a liability has been satisfied.
63 An entity shall apply the requirements in paragraphs 132-147 of [draft]IAS 19 to benefits that are provided in connection with the termination of an employee’s employment.

リストラに関する非金融負債については、負債の定義を満たしたときに計上され、IAS19の従業員給付における解雇給付の要件を満たす必要がある、とされています。リストラのどさくさにまぎれて早めに引当金を計上することを諌めている規定を織り込んでいます。

これに関連してIAS19自体も変更の草案が出されています。

137 An entity shall recognise a liability and expense for voluntary termination benefits when the employee accepts the entity’s offer of those termination benefits.

138 Except as specified in paragraph 139, an entity shall recognise a liability and expense for involuntary termination benefits when it has a plan of termination that it has communicated to the affected employees, and actions required to complete the plan indicate that it is unlikely that significant changes to the plan will be made or that the plan will be withdrawn. The plan shall:
(a) identify the number of employees whose employment is to be terminated, their job classifications or functions and their locations, and the expected completion date; and
(b) establish the benefits that employees will receive upon termination of employment (including but not limited to cash payments) in sufficient detail to enable employees to determine the type and amount of benefits they will receive when their employment is terminated.

自発的退職の場合は、従業員がそれを受け入れたときに費用計上するとしています。希望退職という名目であれば自発的退職ですので、募集が終了するまでは費用に計上できないことになります。また非自発的退職の場合でもどの部門で何人といった人数と、給付の内容を明らかにして、対象従業員に通知してある必要があります。いわゆるクビの場合にしても実質的には人数がほぼ固まっていないと費用計上は難しいことになりそうです。

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引当金各論-役員退職慰労引当金

注解18には他に損害補償損失引当金、貸倒引当金がありますが、前者は後で出てくる訴訟損失引当金とかぶりますし、後者は評価性引当金ですので、IFRSの引当金の範疇からは外れます。したがって、注解18に出てくる引当金の検証はこれで一旦は終了です。

この論点整理では注解18で例示している引当金の他にも、いくつか実務的な観点から取り上げるべき引当金を検討しています。これに沿った順番で検討を続けていこうと思います。今回は役員退職慰労引当金。

役員に対する退職慰労金については、通常従業員に対する退職給付引当金とは区別して計算されます。それは支給の根拠が異なるからです。従業員に対する退職給付引当金については、労働協約等で支給が義務付けられているのですが、役員に対する退職金については通常契約に基づいて支給されるものではなく、株主総会の決定により支給されるものだからです。株主総会で決定されて初めて契約上の債務になるわけですから、役員在任期間中には契約上の債務は負っていないわけです。従ってその期間中に引当金として計上すべきかどうかは議論があります。

ただし役員退職慰労金を支払っている会社は現実的にはそれに関する内規を定め、それに基づき金額を計算しているのが通例です。したがって、監査・保証実務委員会報告第42号「租税特別措置法上の準備金及び特別法上の引当金又は準備金並びに役員退職慰労引当金等に関する監査上の取扱い」においては、注解18の要件を踏まえ、以下の場合においては各事業年度の負担相当額を役員退職慰労引当金に繰り入れなければならないことに監査上留意する、としています。

(ア) 役員退職慰労金の支給に関する内規に基づき(在任期間・担当職務等を勘案して)支給見込額が合理的に算出されること
(イ) 当該内規に基づく支給実績があり、このような状況が将来にわたって存続すること(設立間もない会社等のように支給実績がない場合においては、内規に基づいた支給額を支払うことが合理的に予測される場合を含む。)

要は発生の可能性が高く、金額が合理的に見積もれる場合、ということになります。

これがIFRSになるとどうなるかですが、役員退職慰労金に特化した定めはなかったかと思います。したがって引当金の原則に鑑み債務性の有無を検討することになります。前述したとおり契約上の債務ではないので、推定的債務であるかどうかを判断することになります。推定的債務の要件は以下のとおりです(IAS37 para.10)

A constructive obligation is an obligation that derives from an entity’s actions where:
(a) by an established pattern of past practice, published policies or a sufficiently specific current statement, the entity has indicated to other parties that it will accept certain responsibilities; and
(b) as a result, the entity has created a valid expectation on the part of those other parties that it will discharge those responsibilities.

実際に内規があり、その通りに支払っている実績のある会社であれば、上記の要件は満たされるのではないかと推定されます。したがって現在わが国で役員退職慰労金を計上出来ているのであればIFRSでの計上もあまり問題ないように思えます。

ただし計上金額については注意が必要です。IAS19の従業員給付ではとくに役員退職金を区別していません。役員退職慰労金についても従業員の退職給付引当金と同様の方法によって計上されることになります。したがって予測給付債務を計算した上で割引計算をする必要があるということになります。現行実務では割引計算を指定ない場合が多いと推定されますので、この部分については差異になると考えられます。

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引当金各論-債務保証引当金

今回は債務保証引当金です。

期末日現在、債権者との間の債務保証契約によって企業が保証先債務の弁済義務を負っていれば、債務性があるということになりますので、IFRS上も債務保証に係る負債計上については問題がないものと言えます。ただ計上方法については、日本基準とIFRSでは微妙に異なることになります。

日本基準では、「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」が債務保証関連の会計処理を事実上取り扱っています。ここでは「主たる債務者の財政状態の悪化により債務不履行となる可能性があり、その結果、保証人が保証債務を履行し、その履行に伴う求償権が回収不能となる可能性が高い場合で、かつ、これによって生じる損失額を合理的に見積もることができる場合には、保証人は、当期の負担に属する金額を債務保証損失引当金に計上する必要がある」、とされています。この表現からは債務保証それ自体は貸借対照表計上の対象とはならず、債務保証義務を履行した際の求償権にかかる損失の問題としていることが見て取れます。すなわち債務保証の債務性に着目するのではなく、求償権の回収不能に係る損失の引当として債務保証損失引当金を捉えていることが分かります。

一方IFRSでは金融商品の基準であるIAS39がまず適用になります。IAS39では、

(c) financial guarantee contracts as defined in paragraph 9. After initial recognition, an issuer of such a contract shall (unless paragraph 47(a) or (b) applies) measure it at the higher of:

the amount determined in accordance with IAS 37; and
the amount initially recognised (see paragraph 43) less, when
appropriate, cumulative amortisation recognised in accordance with IAS 18.

つまり、保証債務についてはまず当初認識を行った後に、
・IAS37号に従って計算した金額
・当初認識した金額からIAS18に従って償却した後の金額
いずれか高い方で認識する、ということになっています。

ここでIAS18という収益認識の基準が登場するところがポイントだと個人的に思っております。つまり無償で行う債務保証契約というものはなく、何らかの対価を持って行われるものであるということです。例えば売上にともなって得意先に債務保証を行う場合などは、売上対価の一部を債務保証の対価として配分し、当該部分の入金(あるいは売掛金)に対して債務保証負債を認識することになります。この債務保証負債は、債務保証が有効である期間にわたって償却して、収益として認識していくことになります。それがIAS18に従った償却です。

ところが、保証先の財政状態が悪化し、保証義務を履行する確実性が高くなった場合、金額は合理的に見積もれる場合が多いかと思いますので、支払いを求められるであろう金額が償却後債務保証負債残高を上回る場合は、前者の金額を債務保証負債(引当金)として計上することになります。

なお、この場合は当然債務保証契約の相手に求償権が生じることになりますが、その求償権は別個に評価されます。すなわち、資産と負債がグロス表示となります。日本基準だと求償権の回収不能額を引当金として計上することになりますので、ネット表示となる事になりますので、ここが基準差になりうる部分です。

これが現在出ている公開草案だとまた異なってくることになりますが、長くなりましたので、ここで切ります。

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引当金各論-修繕引当金/特別修繕引当金


注解18での順番で次に来るのが「工事補償引当金」ですが、論点は製品保証引当金とほぼ変わらないものと思いますので割愛します。またそのつぎは退職給与引当金(論点整理では「退職給付引当金」)ですが、こちらについては別方面で検討がされていて、引当金分野の論点ではなくなっていますので、これについても割愛させていただきます。

そして次に来るのが「修繕引当金」および「特別修繕引当金」になります。これらについては日本基準とIFRSでは明確な差異がありそうです。

修繕引当金についても明確な定義はどこにもありませんが、定期的な修繕に備えて、次の修繕にて発生する費用を見積り、期間配分するための引当金、というのが通常の理解かと思います。また、船舶や溶鉱炉の場合費用が大規模になるため、引当金の繰入が税法上も認められていました。これが「特別修繕引当金」です。現在ではその制度が廃止されていますので「修繕引当金」と「特別修繕引当金」を区別する理由は特にありません。

さて、日本基準とIFRSでの引当金の定義 の大きな差異として「現在の義務」であるかどうかの判断があります。IFRSでは現在の義務であることを引当金計上の第一要件として要求します。この修繕引当金についてはIFRSでは「現在の義務」ではないと解されています。この義務については回避不能ではなく、修繕が要求される期間までに対象の資産を売却したり、廃棄したりすればその義務を回避することができるからと言われています。したがってIFRSでは修繕引当金の計上は認められないことになります。


では、IFRSではどのように処理するかというと、IAS37号の設例に記載されています。固定資産の追加取得とみなし、発生した修繕費用を資産計上し、次回の修繕までに減価償却する、という手法が取られます。つまり支出した時の資本的支出であるという処理が取られることになります。日本基準では支出までに費用化されてしまいますが、IFRSでは支出後に費用化されるということであり、費用化の時期において基準差異が発生することになります。

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引当金各論-賞与引当金

引当金各論-賞与引当金

@isologueさんに補足されたおかげで、金曜日のアクセス数が膨れ上がっています。いい加減なことは書きにくくなったなと思いつつも、限度がありますので、いろいろ違っている面があればご指摘いただければと思います。IFRSについては2-3年前とは違い、今や私等より詳しい方は大勢いますから・・・。


今回は賞与引当金。

「論点整理」においては「企業が労働協約等によって賞与の支給を従業員に対して約束している場合、これに基づいて期末日現在で企業が負っている債務額を引当金として計上するものと考えられる」、としています。契約で支払うことが明記されているのであれば、期末時点での債務であることには間違いないでしょう。

問題は、基本的に業績に左右されることが多い賞与引当金について、どこまで合理的な見積りが可能か、というところではないかと思います。

日本ではかつて法人税施行令で賞与引当金の損金算入が認められており、算入の限度額が決められていました。暦年基準、支給対象期間基準どちらかで計算することになっていました。計算式はすっかり忘れてしまいましたので(汗)、こちらなどをご参照ください。

法人税施行令が廃止され、賞与引当金の損金算入が認められなくなった後、「未払従業員賞与の財務諸表における表示科目について」がJICPAから公表されました。期末時点で金額が確定しており、その計算が支給期間に基づいていれば未払費用、それ以外の臨時の要因であれば未払金、期末に金額が確定していなければ賞与引当金として計上する・・・。認識基準と測定基準が非常にざっくりなのに、こういう表示科目のことになるとなぜか異様に細かい日本基準。これに基づけば3月末には6月賞与がほぼ確定している会社でも、6月時点では12月賞与など固まっておりませんから、期末では未払賞与、第1四半期末では賞与引当金などという表示が原則となってしまい、それってなんの意味が・・・ってことになっております。

ともあれ、世間的な常識として賞与の存在が定着している日本のことですから、計算式があればもちろん、支払っている過去実績等で合理的に見積りができれば、引当金の計上は可能であるかと思います。

これがIFRSとなりますと、引当金の基準のIAS37ではなく、従業員給付について包括的に定めたIAS19の範疇に含まれます。Para.17には以下の、IAS37をそのまま引用したような文言が並びます。

17.An entity shall recognise the expected cost of profit-sharing and bonus payments
under paragraph 10 when, and only when:
(a) the entity has a present legal or constructive obligation to make such
payments as a result of past events; and
(b) a reliable estimate of the obligation can be made.

つまり、現在の法的または推定的義務があり、合理的な見積りができることが条件とのこと

そして現在の義務については以下の記載。支払う以外の現実的な選択肢がない場合とのこと。
A present obligation exists when, and only when, the entity has no realistic alternative but to make the payments.

そして合理的に見積もれる場合として、次の3点を挙げています。
20 An entity can make a reliable estimate of its legal or constructive obligation
under a profit-sharing or bonus plan when, and only when:
(a) the formal terms of the plan contain a formula for determining the amount of the benefit;
(b) the entity determines the amounts to be paid before the financial statements are authorised for issue; or
(c) past practice gives clear evidence of the amount of the entity’s constructive obligation

計算式があるか、財務諸表の公表決定までに金額が確定しているか、あるいは過去の支払った実績から義務があると判断できる場合か、ということです。

長々書いてきましたが、結論としては賞与引当金についてはIFRSにおいても計上すること自体はそれほど日本基準と変わらなそうです。ただ未払費用と賞与引当金を区分する規定はIFRSにはなさそうです。

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引当金各論-返品調整引当金

企業会計原則注解18に記載されている三つめの引当金は返品調整引当金です。

これについても、買戻特約があるのであれば、販売時点で何らかの義務を負っていることは間違いないので負債の定義には該当するかと思います。ただし、販売の時点でどれだけの返品があるか合理的に見積もることができるか?ということがポイントになってくるかと思います。

現在の日本基準では、注解18があるだけで、明文の基準はないと思われますが、返品の義務がある場合は、返品調整引当金を計上して、引当金繰入額として費用処理するのが通例のようです。
なお、法人税法施行令では第101条に出版業、取次業、医薬品、レコード製造業などに返品調整引当金の損金算入を認めています。見積方法としては 期末売掛金×返品率×売買利益率 または  期末以前2ヶ月の販売高×返品率×売買利益率 となっています。これらの業界のことについては詳しくないですが、おそらくこれに基づいた見積がされているものと思われます。

これがIFRSになると、収益認識の問題となってきます。そもそも顧客に返品権があるということは、商品に対するリスクの全てが顧客に移っているとは言えない状況にあります。返品率が合理的に見積もることができないのであれば、重要なリスクは顧客に移転していないと判断され、収益の認識自体が否定されるかと思います。この場合先に受け取った金額は前受金として処理されることになるでしょう。少なくとも税法基準に則っていれば、合理的な見積り、とは単純にはいかないかと思いますので返品に伴うリスクが如何ほどになるかは評価する必要があるかと思います。

合理的な見積が可能であり、重要なリスクが顧客に移転している、ということであれば収益認識は可能となります。ただし、これもリスクが移転している範囲内で、ということになりますので、返品が見込まれる部分については収益を認識することができず、繰延処理となります。売上100のうち3%の返品を見込むのであれば、売上は97しか計上できないことになります。

現在公表されている収益認識に関するIFRSの公開草案でも上記の会計処理は踏襲されていると考えられます。

B9 返品期間中に返品される製品を受け入れるために待機するという企業の約束は、返金を
行う義務に追加された別個の履行義務として会計処理してはならない。その代わりに、
企業は次の両方を認識しなければならない。
(a) 返品が予想されていない移転した財についての収益
(b) 返金の負債(第37 項に従って)


つまり、返品権のある商品に対する入金については、収益として計上する部分と、負債として計上する部分に区分することになります。そして、

B12 企業は、返金負債の決済時に顧客から製品を回収する権利について資産(及びこれに対
応する売上原価の調整)を認識しなければならない。当該資産の当初測定は、棚卸資産
の従来の帳簿価額から当該製品の回収のための予想コストを控除した額を参照して行わ
なければならない。その後は、企業は、当該資産の測定を返金負債の変動に対応させる
ように見直さなければならない。

対応する売上原価についても戻し入れし、「製品を回収する権利」として棚卸資産のようなものを計上する必要がある、ということです。

若干書き足りないところもありますが、後ほど補足するかもしれないということで、本日はこれまで。


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今日は休載

パスワードの変更等でミスってしまい、朝からネット環境の修復をしていたら記事を取りまとめる時間がなくなってしまいましたので今日は休載いたします。

なお、昨晩は下記の方々との会合。ありがとうございました。
(BlogまたはTwilogを公開されている方のみ)

http://kazemachi-roman.cocolog-nifty.com/blog/
http://twilog.org/L_GD
http://twilog.org/tkuTokyo
http://d.hatena.ne.jp/ny47th/
http://dtk2.blog24.fc2.com/
http://mathdays.blog67.fc2.com/

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引当金各論-売上割戻し引当金

本日は売上割戻し引当金。企業会計原則注解18の二番目に記されており、論点整理でもそのとおりの順番で記載されています。

これは、販売先のインセンティブのために、一定の基準を達成した際に、売上の幾許かを販売先に支払う、いや返すという表現がいいのかもしれませんが、どちらにしろ販売が終了した時点で、契約上支払うことが確定している性質のものであると考えられますので、債務性を持つことは間違いないでしょう。

これも日本基準では明確な処理基準がないかと思います。したがって国内では様々な実務が行われているようです。販売促進費として販売費及び一般管理費を相手勘定として売上割戻引当金を計上するケースが一般的なようですが、売上の戻入とする方法、あるいは販売時点では費用処理せずに支払いベースで費用計上している実務もあるようです。

これがIFRSになりますと、IAS18のpara.10で

It is measured at the fair value of the consideration received or receivable taking into account
the amount of any trade discounts and volume rebates allowed by the entity.

収益の金額はリベート等を控除して計算することが規定されていますので、売上の減額として処理されることになります。販売費及び一般管理費として処理している場合には会計処理の変更が出そうです。

これが、現在公表されている収益認識に関するIFRSの公開草案ではどうなるかといいますと、
(なぜか原文はコピーできなかったので、翻訳版です)

48. 企業が、顧客(又は、顧客から企業の財若しくはサービスを購入するその他の当事者)に対し、現金、掛け、又は顧客が企業に対して負っている金額に充てることができるその他の項目の形で、対価の金額を支払ったか又は支払うことが見込まれる場合には、企業は、その金額が以下のいずれであるのかを決定しなければならない。

(a) 取引価格の減額、したがって収益の減額(すなわち、顧客は企業の財又はサービスについて値引きを受けている)
(b) 顧客が企業に提供する区別できる財又はサービス(第 23 項で説明)に対する支払。この場合、企業は、当該財又はサービスの購入を、仕入先からの他の購入を会計処理するのと同じ方法で会計処理しなければならない。
(c) (a)と(b)の組合せ。この場合、顧客に支払われる対価が顧客から受け取る財又はサービスの公正価値を超過する金額について、企業は取引価格を減額しなければならない。顧客から受け取る財又はサービスの公正価値を合理的に見積れない場合には、顧客に支払われる対価の全額を、取引価格の減額としなければならない。

つまり顧客が別個の販売またはサービスの提供をするのでない限り、それは取引価格の減額とするということなので、書き振りは異なるものの、現状のIAS18と同様に、売上の減額で処理することになりそうです。

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