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引当金各論-訴訟損失引当金

先週末、某勉強会での発表が終了しまして、著しく更新のモチベーションが衰えているのですが、多少ネタが溜まりましたので、少しずつ放出していきたいと思います。

今回は訴訟損失引当金を取り上げます。

訴訟の厄介なところは、先々どうなるかが全くわからないところであり、また少なくとも1社だけの経験値では、たとえ負けたとしても金額を見積もることが困難であることにあります。

日本基準では例によって注解18に従って考えることになります。過去の事象であり、損失要因であることは疑いないので、残りの要件、すなわち発生の可能性が高く、合理的に見積もれるか、ということで判断することになります。発生の可能性が高いかどうかは訴訟も最後の方にならなければなかなかわからず、たとえ最初の方で部が悪くても最初から負けるつもりで訴訟を戦うわけではありませんから、引当金の計上は難儀を極めるかと思います。また、たとえ負けを見越していたとしても、金額が合理的に見積もれない場合は引当金が計上できないことになります。例に出すのは甚だ不謹慎なのですが、数年前に大事故を起こした西日本旅客鉄道(JR西日本)においては引当金を計上せず、下記の注記をすることがここ何年か続いています。

 今後、福知山線列車事故に伴う補償などの支出が見込まれますが、これらについては、現時点では金額等を合理的に見積もることは困難であります。

この状況は現行IFRSでもほとんど変わらないと考えられます。発生の可能性が高く、金額が合理的に見積もることができる、という要件はIFRSでも形式的には変わりません。もっとも「発生の可能性が高い」というレベルは日本基準よりIFRSのほうがハードルは低いと考えられますので、この部分での差異は出てくるかもしれません。

ただ、IFRS37の公開草案(ED)では若干論点が出てきます。EDでは蓋然性要件、すなわち「発生の可能性が高く」という要件の廃止を提案しています。債務であれば、発生の可能性の高さにかかわらず計上し、発生の可能性の高さについては測定金額によって反映する、というのがEDの考え方です。したがって、訴訟を起こされた場合、少しでも負ける可能性があれば(というより100%勝訴という場合も稀かと思いますので)引当計上の可能性を検討しなければないのでは、という点です。

この論点については2010年4月にIFRSがStaff Paperというものを発行しています。Recognising Liabilities Arising from Lawsuits
と名付けられたこのPaperでは

6. At present, many preparers of financial statements focus on criterion 2 when judging whether to recognise a liability for a lawsuit.
(注:criterion 2 = It is probable (more likely than not) that an outflow of resources will be required to settle the obligation.)

ということで現在では発生の可能性の高さを基準で引当金を認識することが多いことを認めていますが、


4.Removing criterion 2 would not require entities to recognise liabilities for all lawsuits. This is because the lawsuits might not satisfy the other recognition criteria. In particular, the existence of a lawsuit does not necessarily mean that the entity has a present obligation (criterion 1 ). An entity has a present obligation only if, and to the extent that, the claim against it is valid.

と、たとえ発生の可能性が高い、という要件を廃止したからといって全ての訴訟案件につき引当金を計上する必要があるわけではないとしています。IAS37の引当金計上要件にはまず、現在の債務であることが要求されることは今まで見てきたとおりですが、訴訟についてはその訴えが正当であって初めて現在の債務があるのだ、と判断するということになるようです。このStaff Paperによれば、EDが基準化したことによっても現行IFRSの訴訟引当金計上が追加計上になることは想定していないようです。

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