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トモ・スズキ氏の講演

トモスズキというオックスフォード大学の日本人学者がいらっしゃいます。私のようなアカデミズムの端にもかからない位置にいる者にとっては海外で活躍されている学者の方の名前には疎いのですが、この方が実務家にも名前が知られるようになったのは昨年金融庁に提出されたオックスフォードレポートによるものです。

http://www.fsa.go.jp/common/about/research/20120614.html


そもそも当時の反IFRSの象徴となっていた自見金融大臣(当時)時代の金融庁の委託研究ということでいろいろ物議をかもしました。

金融庁が「詐称」を容認した学者
http://d.hatena.ne.jp/isoyant/20120903/1346598255

「オックスフォード・レポートに異議あり(週刊経営財務)」 
http://ivory.ap.teacup.com/kaikeinews/5551.html


まあ、経歴詐称かどうかは(JICPAやその構成員にとってはともかく)私にはさしたる問題ではありません。少なくとも試験に受かって監査法人に勤務していたことは事実のようだし、退会後どう名乗っていたかについてはあまり興味がありません。

むしろ、こういったものが出てきた背景や方法論(実証会計はもちろん、制度会計系の論文とも随分毛色がちがう)に興味を持ちました。今回たまたま末席に入れてもらっている学者さんの研究会に参加させていただくことができ、講演を聞くことができました。私の筆力ではうまくまとまりませんのでメモを断片的に流すことでお許し下さい。


・私はもともと南伊豆で生まれて、周囲はほとんど大学に行かないような環境に育った。ずっと哲学をやりたかったが、カネにならないので、まず公認会計士となって、監査法人に勤務して資金を貯めてオックスフォードに渡った。

・現地では哲学をやっていたが、指導教授が通常以上にオリジナリティを要求するタイプであったので、過去の経験も踏まえてこの分野での研究も行うこととなった。

・このようなレポートを提出したため、日本では反IFRS派と見られているが、必ずしもそうではない。この手のレポートは以前に中国やインドでも出しており、中国ではコンバージェンスを勧めているし、インドでは8基準のカーブアウト前提のコンバージェンスを推奨している。国によって環境は異なる。

・とくにIAS41(農業)については東南アジア諸国のプランテーション産業にとっては大問題。公正価値評価をして価値を持ち上げて成長とともに価値が低減していく会計モデルは資金の源泉がない時期から配当のプレッシャーとタックスの不確実性をもたらすもので産業をダメにしてしまう。

・これから世界的に問題となるのは中国とインドでありだからこそレポートの対象とした。、正直言って日本の状況にはあまり興味がなかった。日本は今のままでも問題ないので(注:世界における存在感はもうないので、というニュアンスのようにも聞こえましたが)。それを動かしたのは某経済団体と某省からの訪問者。


・私の研究手法は見ていただければ分かる通り、ステークホルダーを網羅的に洗い出し、分類し、細かくインタビューを重ねていく。その積み上げを分析して書くというもの。研究方法にバイアスが入りかねない等の問題点は本人である自分が重々承知している。

・今回のレポートについても、反IFRSのバイアスが入っているのではないかという批判があるのは承知している。ただ一言言わせてもらえれば、あらゆる努力をしてIFRSにサポーティブな意見を集めようとしたが、なかなか集まらなかった、というのが現実。

・しかしながら2006年にIFRSをテーマに論文を募集したケースがあったがさっぱり集まらなかった。これは適用事例が積み上がっていなかったからだが、データ数値を収集して分析する実証的研究だけでほんとうにいいんですか?

・もともと投資家保護という概念は100年前の英国において銀行のために作られたもの。当時は投資家である銀行がビジネスチャンスを見つけてきた。銀行の繁栄が企業の繁栄であり、英国の繁栄であった。現在保護すべき投資家は誰ですか?ビジネスには興味がない短期投資家は保護に値するんですか?

・個人的には中国ではイノベーションは起きないと考えている。まだ日本のほうが継続的にイノベーションを行う土壌があると考えており、もっと投資家の資金を長期的に振り向けるようにならないか、というのが課題認識。

・今後の日本のIFRS導入についてはもっとコンセンサスを重ねていけばいいという立場。(どのような概念でコンセンサスが形成されると思うのか?という問いに)現実は何らかの形で誰かが決断を下すのだが、それに向けてのプロセスそのものが目的となりうると考えている。

・投資家向けの会計が全てではない。例えば企業が全く環境問題を顧みないような国において、環境費用を開示するというのはどうだろう。コストは殆どかからず、環境対策を促進する効果があるのではないか。そういった情報提供の役割を期待している。

日本語前提の講演ですが、熱くなってくると突然英語となる熱血講演でした。
哲学系という観点から現在の金融資本主義に疑問を持ち、IFRSはその先棒を担いでいる、というお立場かと思います。

私とは必ずしも立場を同じくしませんが、日本では守旧派と見られかねない意見がIFRS発祥の地英国在住の日本人学者から出てきた意義は小さくないと思います。もう少し自分の意見を考えなおしてみるきっかけになりそうです。

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