起業のファイナンス-磯崎哲也著 日本実業出版社

既にAmazonでも即時入手困難という状況であり、また数々の場所でも取り上げられている書籍なので、今更場末の更新の少ない本ブログで取り上げる意味合いもあまりありませんが、私も読みましたという報告まで。


で、以下の感想は一定の層にしか当てはまらないかと思います。念のため。

私みたいに決算→ディスクローズ業務をやっていて、会計基準や会社法、金商法に常に触れているような方は、ある程度の規模の企業には何人かいらっしゃるかと思いますが、そのような方にとってはこの書籍で述べられている制度的な側面についてはある程度知識があるものと思います(もちろん知識があるのと使えるのでは全く別ですが)。そういう意味でこの書籍により新たな知識を詰め込もうとするちょっと肩透かしにあうかとおもいます。

では、経理財務素人向けの本なのかというと決してそんなことはありません。

これを言ってしまうと推理小説のネタバレに近くなってしまうかもしれませんが、著者は本書で繰り返し「人」の大切さをしきりに説いています。それは、下記の記述の数々に如実に現れています。

ベンチャー企業の「生態系」が機能しはじめるためには、カネだけではなく、デキる「人」が流れ込まないといけません(p38)

事業計画を作ることを通じて考えがまとまっていれば、説得力のある話をできる可能性が高まるということです。(p119)

このため(ストックオプションは)、単なる技術ではなく、「人の気持ち」や、将来展開される「人間ドラマ」を考えて設計する必要が大いにあるのではないかと思います(p224)

次の新しいことを始める場合に、「信頼がおけるヤツだ」と見てもらえるのか「信頼がおけない(いざとなった場合に見苦しい)ヤツだ」とみられるのかは、大きな違いです(起業家にとっても投資家にとっても)(p321)


本著は所詮ベンチャーを活かすも殺すも「人」である、という視点から、最初で述べたような断片的な知識群を「人」を軸としていかに有機的に組み合わせるか、そういう観点からいくつもの気づきを与えてくれるものであると考えています。


さらに、(ベンチャーには)状況にあわせて臨機応変に対処できる能力が必要でありそのためには「イケてるソーシャルグラフ」の中にうまく入り込めることが重要、と述べています。(p114)。さらに「イケてるソーシャルグラフの中に潜り込んで、自分の必要をかなえる能力」。たとえば、「資金を出してくれる人にたどり着いたり、人材などを見つけ出したり、営業で成果を上げる能力があること」がイケてるベンチャー企業の要件であると説きます(p115)

著者はまた冒頭で、この本を執筆するきっかけとしてベンチャー企業に関する適切な情報が十分に供給されているとはとてもいいがたい状況であることを挙げています(p19)。もてしそうだとすれば、起業家側と同様それを助けるべき専門家側でもそういう「イケてるソーシャルグラフ」に入りきれていないということも言えるのかと思います。

上場企業に一人はいるであろう専門家群がこのような「ソーシャルグラフ」の中にどんどん入ってくれば、起業家側の層もまた広がることにつながってくるのではないかと思います。

残念ながら、著者がベンチャーのもうひとつの大事なこととしている「アニマル・スピリッツ」には大きく欠けている私ですが、そんな私でも考え方一つでベンチャー企業の、ひいては日本活性化のお手伝いができるのでは、という気にさせてくれる、キャリアプラン検討の一助としても役立つ本である、そのような感想を持ちました。はい。

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【読書】ギスギスした職場はなぜ変わらないのか 手塚利男 Nanaブックス

著者のブログでは3/15発売、3/16店頭と書いてあるので、まだあまりweb上の書評は出ていない様子です。書店にぶらっと入り目に付いた本を手にとったらこれだった、ということはやはりギスギスしている自覚があるということか。

類書に比べ、力の抜き方がいいと思います。どんなに職場を活性化しようとしても「残り二割り位の人のモチベーションは高まらないで残る」と言い切り、それでもいいと、ポジティブな割り切り方をしています。あまりに「熱い」本だと退いてしまいますからね。

かく言う私も、職場旅行、運動会、飲みニケーション、若手時代こういったものをどちらかというと苦手で、切り捨ててきたほうの立場です。世の中の流れもそうで、こういった習慣は徐々に廃れてきました。そして、今現在9人の部下を抱える立場になりました。今更上記のような手段でコミュニケーションをとることは自分が嫌がっていたことを押し付けることになりますし、中途採用が半分くらいとなり部下の価値観が多様化した現在当時と同じ効果があるかは疑問です。そんななか、そうでなくても人とのコミュニケーションがどちらかというと億劫な上司(つまり私)は何をすればいいのか、試行錯誤が続きます。そもそも9人の部下。一人一人の報告を聞いているだけで定時間が過ぎてしまいます。部下は残業削減が至上命令となっていますので、自分の抱えている仕事は残業時間にやらざるを得ない。深夜に帰宅、そして疲労、コミュニケーションが面倒、といった悪循環に陥っていきます。どこかで断ち切らなければあかんのですが、抜本的な解決策はまだなし。

とりあえず、バーバルコミュニケーションを億劫に感じないようになりたいと思うのですが、ってmixiやブログに書いているようじゃまずダメなのかも・・・

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【読書】ドナウよ、静かに流れよ 大崎善生

おおたさんのところから

ところで、千葉さんは、残念ながら数年前に結婚し、元の碓井涼子さんから千葉涼子さんになってしまった(旦那は若手棋士なのだが、「碓井涼子の夫」と呼ばれるのが嫌で、新妻に苗字の変更を迫ったそうだ)。もし、先に「ウ・ス・イ」という詰将棋を創ったのに、名前が「チバ」に変わったら、・・・ それこそガッカリだ。


碓井涼子さんが新姓を名乗ったのはそういう事情があったのですか。で、その結果、今では「旦那のほうの千葉」と呼ばれているような気が・・・

まあ、それでも今回の女流王将挑戦者の旦那よりはいいのかもしれない。呼ばれることすら少なくなるというのはそれはそれでつらいものであると思うのだが。

で、今回の本題は、なかなか高橋和の旦那と呼ばれることはなく、「自立した夫」である大崎善生さんの作品。


これはまた、偶然にも前エントリとつながる。「嫌われ松子の一生」で、だめ男になびいてしまう女性の心境ってどんなもんかと思っていることを書いたのだが、程近くして読んだ本書も、描き方は違えども、主題としては同じものを扱っているといえるのかなと思える。

両親のもと、何の不自由もなく育てられた少女が、ルーマニアに留学し、一人の寂しさに耐えられず、だめだめの男に尽くすようになり、そして自ら毅然として命を絶つ・・・

もちろん、これは残されたものの勝手な仮説であり、真相はまた別にあるのかもしれない。大崎氏の独特な筆致で、あたかも美しいフィクションのように描かれているものの、実際には悲しいノンフィクションであり、本来は美化すべき話ではない。

ただ、一つの解釈として読む分には、さすが引き込ませるものがある。おそらく大崎さんにとっては将棋関係以外(まったく無関係とは言い切れないが・・・)の初めてのノンフィクションであるかと思うのだが、丹念な取材と、あえて取材元(被害者の家族)に都合の悪い事実も赤裸々に書くことによって、仮説を肉付けていく。

このだめ男は自称指揮者であったとのこと。じゃあ私も指揮者の真似事はしたことがあるので、それをもって欧州を放浪したら、こんな献身的な女性に出会うことができるのかな。いや、出会ったとしてその献身に重荷を感じないで生きていくことができるのだろうか。自分だったら逃げ出してしまうだろうな。どうやら、だめ男には、それを愛することで生きがいを見出す女性たちがいて、需要と供給がバランスしているらしい。うまくできているというのか、悲しい性と言うべきなのか、私には分かりかねる。

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iモード事件、その後

ちょっと本の整理をしていたら、松永真理著「iモード事件」が転がってきた。懐かしさにちょっとぱらぱらめくってみて、ふと気になったことがあった。

榎氏夏野氏は今でも携帯電話業界の有名人としてよく表舞台に立っている。が、私が気になったのは、この本の中で「こち亀」の中川のような存在となっている笹川貴生氏である。

いわずと知れた、戸締まり用心のおじさんのお孫さんである。夏野氏になぜドコモに就職したのかを聞かれ「人生修行です」と言い放った笹川氏。彼はまだドコモにいるのだろうか。wikiを見る限りではまだドコモ社員と書いているが・・・。

検索してみるとあっさり出てきた。

役員の異動ならびに人事異動に関するお知らせ


岩井証券の取締役に就任するそうです。同一人物かどうかの確認は取っていませんが不要でしょう。岩井証券ですし。今週中に有価証券報告書が提出されれば経歴が分かるでしょう。だれかwikiを更新して置いてください(人任せ)。

しかし、この本から計算するとまだ33歳。ドコモでの人生修行はどのように活きるのでしょうか。

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ライブドア監査人の告白(読了)

読了しました(遅いですが)。
守秘義務との関係はともかく、確かに興味深い本ではありました。

ただ、この告白を真に受けて、会社の資料を盗み見たり、不必要に会社と対立したり、いたずらに社長との面会を求めたり、そんな勘違い会計士が増加しないことを、クライアント側としては切に願うものであります。

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【読書】ライブドア監査人の告白

ライブドア監査人の告白

つい買ってしまいました。
まだ読了していませんが、赤裸々な記載が興味深いです。

が、

これって守秘義務違反にならないのでしょうか?
ご本人は公認会計士資格を返上するとおっしゃっていますが・・・

(秘密を守る義務)
第二十七条  公認会計士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。公認会計士でなくなつた後であつても同様とする。

返上してもその義務は残るわけです。

第五十二条  第二十七条(第十六条の二第六項において準用する場合を含む。)又は第四十九条の二の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2  前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

まあ、告訴される可能性は低い(堀江氏が告訴する可能性は?)からいいという事なのでしょうか?なんか釈然としません。(だったら買うなといわれそうですが)

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【読書】星々の舟 村山由佳

村山由佳、初体験。

・・・だって、この歳になって「おいしいコーヒーのいれ方」でもないでしょう。
なんか気にはなっていたんですが、なかなか書店のレジに持ってはいけませんでした。

でも、直木賞。浅田次郎や山本一力と一緒。おじさんが読んでもきっとおかしくない、そうに決まっている。そう思い、今回は勇気を振り絞って堂々と購入しました。
(と、かつて山本文緒や唯川恵を買うときも同じ言い訳をしたような記憶があるのですが・・・)

内容は、一つの家族(性格には親戚)のメンバーが歩んでいるそれぞれの人生を描くというもの。妹萌え、不倫、婚約破棄、団塊世代の苦悩、いじめ、従軍慰安婦、こういった主題のごった煮。

それぞれはよくある主題。これだけの数の主題を織り込めば、くどくなってしまいかねないのですが、それらの主題を家族という接点からコラボレーションさせて、ストーリーにテンポ感を持たせているとともに、過度に深く掘り下げず、それぞれを軽めに描くことで、上手く胃もたれ感を回避しています。私もこのテンポ感にのり一気に読んでしまいました。テーマが重苦しい割には読後感がいいです。面白い作品であったと思います。

ただ私より若い世代はともかく、団塊世代、従軍世代の方々がこの描かれ方をどう思うのでしょうか。作者はかなり背伸びをしながら書いているように感じます。きっとその世代からはそれなりの反感が出てくるかと思います。作者にとっては一大冒険であったでしょうが、これをきっかけに、私がレジ堂々と持っていける作品をもっと書いてほしいと思います。

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【読書】将棋の子 大崎善生

自分の中では高橋和女流二段の夫として有名な大崎氏。「パイロットフィッシュ」「アジアンタムブルー」は読んでいたが、将棋がらみの本は初めて。もともと「聖の青春」で有名となった方だが、村山聖のエピソードは多少将棋に関心があれば知っている話なので、あえて読むまでもないと思っていたためであろう。

加えて「パイロットフィッシュ」などの作品。春樹チルドレンの一員とも呼ばれているらしい彼の文体と「元将棋世界編集長」という肩書きがどうも一致しなかったのである。「将棋世界」は私のガキの頃の愛読雑誌。読んでいたわりには一向に強くならなかったものの、観戦記を読むのは好きだった。もっとも本書によると、大崎氏が将棋世界編集部に配属されたのは昭和59年。丁度私が読まなくなった頃から。私とはすれ違いのようである。

この作品にたまたま引っかかったのは、図書館の閉館時間ぎりぎりに窓口に行こうとしたらふと目に留まった。それだけのことである。最近「将棋」というキーワードに敏感だということもあるか。

そんな本書、自分の中では中倉彰子女流初段の夫として有名な(こんなんばっかり)中座真現五段の奇跡的な四段昇段シーンから始まる。まったくの他力本願での昇段。運命の女神が微笑んだ。そして同日、運命の女神に背かれた者が四人。愛達治、長田博道、渡辺恭位、瀬川晶司。その9年後、新たなドラマが生まれるが、そのようなことは当然作者も思いもよらぬことである。

この明暗を描いた後、旧知の仲でプロ棋士養成機関である奨励会を脱落した成田英二。彼の人生を中心に奨励会に絡むさまざまな人生のコラボレーションを描く。それは常に日当たりのいい高速道路の大渋滞を突っ走っていった羽生世代ではなく、高速道路から弾き飛ばされた数々の人生・・・

いや、単に弾き飛ばされているだけではない。司法書士となるもの、ブラジルから突然名が聞こえて来るもの。そして長い間底辺を這うも、立ち直りのきっかけを見せる成田。陳腐な言葉だが、人生いろいろ。

そして、彼らを優しく見つめる著者自身についても、幼少の頃の成田とのエピソードがあり、それに自らの人生をもからませる。そして成田との再会後将棋連盟退職。「将棋世界」では書かれることのなかった彼らの人生を書くために

大崎氏が将棋連盟に籍を置いた20年弱の期間。それはまたとない人間ウォッチの機会であったことを知る。「元将棋世界編集長」と「春樹チルドレン」のつながりの一端がやっと少し垣間見えたような気がした。

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【読書】「疾走」 重松清

昨年「流星ワゴン」で、私の枕を浮くばかりにしてしまった重松氏。今年はもっと小説を読もうと思っているのだが、何を買うか迷ったら、今年はまず重松作品にしよう、と決めた。本屋ではいつも優柔不断を発揮してしまうので、こういうポリシーを持っておくのもいいだろうと思った。

そして、重松作品は某進学塾でも推薦されていたし、高橋秀樹著「中学受験で子供と遊ぼう」でも、「エイジ」が薦められていた。重松作品なら子供に読ませても、なんて思っていた。

そのポリシー発揮第一作に「疾走」を選んでしまった。表紙に多少の不安があったが・・・

・・・とても子供にゃ読ませられないんですけど。特に下巻。

あのエログロシーンには退いた。もともとその手のシーンは苦手な私にとって重松作品は安心して読める作品であったのに。重松さんもああいうこと書くんだ・・・。

結局そのシーンのせいで、途中なかなか手に取るのが気が進まず、読了にやたらと時間がかかってしまった。ただ、それさえなければ、テンポ良くあっという間に読み進めることがでる。

テンポはよいが、ずっしりとした読後感。絶望感。

どこにでもある家庭が、あるきっかけからもろくも崩壊していく。弱い親は自分の息子を守りきることができず、息子は完全な「ひとり」となってしまう。「ひとり」を生ききった故の悲劇。

自分は親として、強くなれるのか。息子を「ひとり」にしないことができるのか?作品の趣旨とは違うかもしれないが、強く自問せざるを得ない。少なくとも今の自分の答えは「否」であるような気がするから。

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【読書】僕のなかの壊れていない部分

18日のエントリどおり、週末は引きこもり状態だったわけなのですが、そんな中呼んでいたのがこちら

白石一文さんの小説は読んでていつも疲労感を覚える。「一瞬の光」然り、「すぐそばの彼方」然り。(「不自由な心」は短編集なのでそれほどでもないが・・・)。

出てくる主人公がみんな「疲れる」人物なのである。頭脳明晰のエリート中のエリートで、偏屈者で、時として暴力的で、なんだかんだ理屈をつけて他人を見下すことにより自らのプライドを守っている、それでいてなぜか女性にはもてる(ここが一番腹立つ)。

そして、もっと疲れるのが、その疲れる人物の中に、自分の片鱗が投影できること。

もちろん、彼らほど頭脳明晰ではないし、エリートなんてとんでもない。多少偏屈かもしれないが彼らほどとは思っていないし、精神的には多少暴力的かもしれないが肉体がついていっていない、彼らほど理屈っぽくなければ、プライドも高くない(つもり)。そして、何よりも(以下ry)。冷静に考えれば、彼らと性格や境遇が似ているわけではない。

でも、なんというか、自分の性格のレーダーチャートがあるとすれば、その頂点をさらに限界まで引き伸ばせばこんな感じになるのかなと。自分をデフォルメした姿が見てるようなのが実にこう、鬱なのだ。

白石さんの小説の書評を見ると、主人公に全然共感できない、というのを散見する(心なしか女性が多いような・・・確かに男性優位的な表現が垣間見えることがある)。私とて共感のレベルにあるわけではないが、なんとなく心境は理解できている気がする(事実彼の小説を4冊も読んでいるわけですし・・・文庫だけですが)。うーむ、私も周りからあんな偏屈屋に見られているのだろうか。それは由々しき事態だ。

そんな彼、今回の主人公「僕」もほとんど壊れている状態から「壊れていない部分」をなんとか残せそうな希望が見えてきたところでこの小説は終わるわけです。結局最後まで壊れなかったのは、人とのつながりのおかげ。

思えば、最近はそのつながりに自分が感謝することが、かなり少なくなっているような気がします。感謝を忘れると本当に全て壊れてしまうことになるのでしょう。いろいろ自戒させてくれる一冊でした。だから疲れるんですけどね。

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