国会決議が後発事象?について

すらたろうさんの
「本には書いてない会計実務のお話。」より


すたろうさんwrote:

税制改正法案が4月にずれ込むと
繰延税金資産は改正前の
税率のままで計算するのが原則ですが
国会決議が決算日以後~監査報告書日前ですと
これは「後発事象」、それも、
修正後発事象になるのではないかと考えられます。
この場合、改正後の税率で繰延税金資産を計算することに。

後発事象とは、貸借対象表日以後起きた事象ですが
決算前にその原因があるもので、
次期以降の財務諸表に影響を与える事象のことですね。
税制改正法案は既に国会に付議されておりますので
原因は発生しています。
次に、開示後発事象(注記のみ)なのか
修正後発事象なのかを検討すると、
税率の引き下げにより繰延税金資産の大幅な取崩が
生じますので、修正すべき重要性がある、との判断になります。

「後発事象」であることはそのとおりでしょうが、一般的には「修正後発事象」ではなく「開示後発事象」として考えている方が多いような気がします。

まず、修正後発事象であるためにはそもそも「実質的な原因」が決算日現在においてすでに存在している必要があります。税制改正法案がすでに国会に付議されていることが「実質的な原因」であるかどうかがポイントかと思います。

確かに税制改正法案が付議されていることは、今後の税率引き下げの可能性を高くする事象ではありますが、あくまで決まったことではありません。いや普通はほとんど決まっているはずなのですが、今回の民主党の体たらくを見ていると、提出したままでの法案が可決されるのが確実、とはお世辞にも言えないものがあります。したがって、このままの状態が3月末まで継続するのであれば、税率引き下げを修正後発事象として3月末の決算に織り込むことは困難であるように思えます。

それは、たまたま今年のことだからで、また小沢さんが妙な動きをしているからだ(注:上のすらたろうさんの記事は小沢さんが会派離脱をほのめかす前です)とも言えるのかもしれません。しかしながら、その時点での国会の勢力図や反乱分子の動きで会計上の測定が左右されるというのも違和感があります。したがって、「実質的原因」というのは法案の成立、少なくとも衆参両院の議決が必要であると考えています。

これ以下は(だれも支持していない)暴論となりますが、そもそも上記の立場をとるのは、個人的に「修正後発事象」をきわめて限定的に捉えているからかもしれません。
会計公準中の継続企業の公準からすれば、会計期間というのは永続する企業の実績をテクニカルに一定の期間に切っているにすぎません。決算が年1回の時代であればいざ知らず、四半期ごとに業績を公表していながら、決算末日後にわかった事象につき、これは修正後発事象、これは開示後発事象と区分することはあまり有益なことと思えません。

また、よくある修正後発事象と開示後発事象の区分に「期末日後に貸倒がわかった場合」と「期末日後に災害損失があった場合」というものがあります。後者を当年度の業績に織り込むべきでないのはそのとおりだと思いますが、前者を「本当は見積もれたはずだから」監査報告書日までに決算に織り込めというのはあまりに昨今の実務を無視しているように思えます。まして、投資家にとって株主資本の毀損が起こった、という事実は変わらないのに…。

さらに屁理屈を言わせていただくのであれば、IFRSの引当金会計の現在の流れは事象の期待値により見積もれということになっています(最近軌道修正気味ですが)。期末日以降災害が起こる可能性はゼロではないわけですから、期末日後に災害があったとしてもそれは見積もりの誤りです。貸倒損失と処理を区分する必然性はないように思えます。

というわけで個人的には「修正後発事象」全廃論者です。あとでわかったことは「すみません」と断ってしっかり開示すればすむ話ではないかと思います。いたずらに理論をこね回すことはかえって会計の恣意性をもたらすことにつながると考えています。


なお、(いつものことですが) 上記は個人的見解であり、筆者が所属する企業の見解とは一切関係ございませんので、そのおつもりで。特にわたしの出自を知っている方…

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監査法人に交代制 EU検討、企業となれ合い防止 (10/16 日経16面)(2)

3. Governance and Independence of Audit Firms

このパートが一番の肝です。

(16) Is there a conflict in the auditor being appointed and remunerated by the audited
entity? What alternative arrangements would you recommend in this context?
(17) Would the appointment by a third party be justified in certain cases?
(18) Should the continuous engagement of audit firms be limited in time? If so, what
should be the maximum length of an audit firm engagement?
(19) Should the provision of non-audit services by audit firms be prohibited? Should any
such prohibition be applied to all firms and their clients or should this be the case for
certain types of institutions, such as systemic financial institutions?
(20) Should the maximum level of fees an audit firm can receive from a single client be
regulated?
(21) Should new rules be introduced regarding the transparency of the financial statements
of audit firms?
(22) What further measures could be envisaged in the governance of audit firms to enhance
the independence of auditors?
(23) Should alternative structures be explored to allow audit firms to raise capital from
external sources?
(24) Do you support the suggestions regarding Group Auditors? Do you have any further
ideas on the
matter?

監査人を指名する際や報酬を決定する際に利益相反というものがあるのか、という問題意識から入っています。

そして


一定の場合には第三者がそれを決定することが正当化されるのであろうか、

監査契約期間は制限すべきであろうか、そうであれば最長何年がいいのか、

非監査サービスの提供は禁止すべきではないのか、そうであればその対象は全般的にすべきなのか金融機関等一定の範囲にすべきなのか


最大報酬金額は制限すべきではないのか

監査法人の財務諸表の透明性について新たなルールが必要ではないのか

他に監査人の独立性について取るべき手段があるのか

監査法人の資金調達のために新たなストラクチャーを考えるべきか

「グループ監査人」についての提案に賛同するか

ということにつき質問を投げかけています。

17,18あたりが新聞報道されたメインの部分であります。大事なところですので、原文を引用しますと

The Commission is considering the feasibility of a scenario where the audit role is one of statutory inspection wherein the appointment,remuneration and duration of the engagement would be the responsibility of a third party,perhaps a regulator, rather than the company itself.Such a concept may be especially relevant for the audit of the financial statements of large companies and/or systemic financial institutions. This matter should be explored taking into account, on the one hand, the risk of increased bureaucracy and, on the other hand, the possible societal benefits of demonstrably independent appointments.

大企業や金融機関については、監査人氏名の責任を企業自身よりも規制当局等の第三者にもたせる制度についての可能性を検討している、ということです。独立性についてはベネフィットがある一方で官の増大というリスクがあるということは認識をしているようです。

In this context, the mandatory rotation of audit firms . not just of audit partners . should be considered. The Commission acknowledges arguments relating to a loss of knowledge as a result of rotation. It would nevertheless like to examine the pros and cons of such rotation, especially with a view to instilling and maintaining objectivity and dynamism in the audit market. To prevent partners from changing firms to "take along" certain clients with them, rotation rules, if adopted, should ensure that not only firms, but partners are also rotated.

パートナーのみではなく監査法人のローテーションについても検討する人のことで、これも欠点については認識しているものの、客観性や監査市場のダイナミズムの維持の観点から再度検討したいと。パートナーが顧客を連れて別の監査法人に移るのは反則ですよと。


また意外にも非監査サービスについて制限するEU全般の規制というものはなく、独立性に反してはいけない、という規定の解釈の世界となってしまい各国での実務はまちまちであるとのことです。

最大報酬金額というのはひとつのクライアントから受け取る金額の上限を、法人が受け取る全報酬の一定割合に留める規制のようです。IFACの倫理規定では15%以上であれば開示すべきであるということらしいですが、中小の法人であればありうるのでしょう。

また、監査法人の資金調達云々というのは、現在EU規制では監査法人の議決権は監査人がマジョリティーをとっていなければならないらしいのですが、それを改めるべきかどうかというもののようです。

「グループ監査人」についての提案とは、グループ内の子会社に対する監査についてのドキュメントについても親会社の監査人はアクセスすべきである、ということを言っています。現在でも別監査法人間のクリアランスのやりとりはしていると思われるのですが、どこまでの改訂を見込んでいるのか、原文からは読み取れませんでした。

4. Supervision

EUの監督の話です。国の連合体であるがゆえの悩みもあるようですが、ここではあまり触れません。

(25) Which measures should be envisaged to improve further the integration and
cooperation on audit firm supervision at EU level?
(26) How could increased consultation and communication between the auditor of large
listed companies and the regulator be ac
hieved?

EUレベルでの監督を改善するためにはどうしたらいいか
上場企業の監査人と規制当局の情報交換をどのように増やしていくべきか

(まだ続く予定)

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監査法人に交代制 EU検討、企業となれ合い防止 (10/16 日経16面)(1)

監査法人に交代制 EU検討、企業となれ合い防止 (10/16 日経16面)(1)

欧州連合(EU)が監査法人に対する規制を強化する。

監査法人と顧客企業とのなれ合いを防ぐため、企業に担当監査法人の定期的な変更の義務付けを検討する。登録した監査法人や会計士が域内で自由に活動できる「パスポート」も導入する。四大監査法人の寡占状態にある監査市場の競争を促し、企業や銀行の財務内容を厳しく点検することで金融危機の再発防止につなげる狙いだ。

いくつかのブログでも話題になっている記事ですが、原文はこちらです。

Consultation on audit policy - Lessons from the Crisis


このグリーンペーパーの目的としては

The Green Paper aims to draw the lessons from the crisis with respect to the external audit of companies. In particular, the Commission is keen to discuss whether audits provide the right information to all financial actors, whether there are issues around the independence of audit firms, whether there are risks linked to a concentrated market, whether supervision at a European level might be useful and how best the specific needs of small and medium sized businesses may be met.

いわゆる金融危機によって、いろいろと監査人監査に関する問題点が出てきたので、その対策をしていこう、ということが垣間見えます。日本では景気悪化に伴う市場の伸び悩みから来る会計士試験の合格者の就職問題に夢中のようですが、EUではそもそも監査人監査のストラクチャーを根本的に揺るがすような検討を始めたということのようです。


原文は9章と38個の質問からなっています。全部で21ページですので読むのにはそれほど時間がかからない方が多いでしょうが、私がまじめに読むと時間がかかりますので、質問文を読んでから本文を読むという必殺TOEIC Part7テクニックを駆使して読んでいくことにします。いつもどおり訳は適当にはしょっております。

1. Introduction
ここは全体像なので、とりあえずパス。

2. Role of the Auditor
2.1. Communication by auditors to stakeholders

そもそも、監査人と利害関係者との情報のやりとりが十分であるのか、という問題意識から、以下の質問を投げかけています。

(4) Do you believe that audits should provide comfort on the financial health of
companies? Are audits fit for such a purpose?

(5) To bridge the expectation gap and in order to clarify the role of audits, should the auditmethodology employed be better explained to users?

(6) Should "professional scepticism" be reinforced? How could this be achieved?

(7) Should the negative perception attached to qualifications in audit reports be
reconsidered? If so, how?

(8) What additional information should be provided to external stakeholders and how?

(9) Is there adequate and regular dialogue between the external auditors, internal auditors
and the Audit Committee? If not, how can this communication be improved?

(10) Do you think auditors should play a role in ensuring the reliability of the information
companies are reporting in the field of CSR?

(11) Should there be more regular communication by the auditor to stakeholders? Also,
should the time gap between the year end and the date of the audit opinion be reduced?

(12) What other measures could be envisaged to enhance the value of audits?

そもそも、監査人というのは企業の財務健全性維持の目的に十分寄与しているのか。

投資家と監査人の間にあると言われるいわゆる「期待ギャップ」解消のために監査人はもっと利害関係者に説明すべきではないのか。

監査人に課されている「職業的懐疑心」はもっと強化すべきではないのか、それはどうしたら達成できるのか。

限定付き意見については、消極的評価を恐れるあまり、避けようとする場合が多いが、そのような見方を改めるべきではないのか?

外部の利害関係者にもっと提供すべき情報はないのか、またそれはどのようにして適用したらいいのか

外部監査人と内部監査人との間の十分なかつ定期的な情報交換は行われているのか

監査人はCSRの分野においても情報の信頼性を確保するために一定の役割を果たすべきではなかろうか

外部の利害関係者と監査人の定期的な情報交換はもっとやるべきではないのか、また財務諸表日と監査意見日の差は埋めていくべきではないのか

その他監査の価値を高めるためにどのような手段があるか

2.2. International Standards on Auditing (ISAs)

ISA(国際監査基準)については最近フォロー不足なのですが、2009年までに「クラリファイプロジェクト」というものをやっておりまして、基準が見直されています。これに応じて日本の監査基準なども修正されています。IFRSを導入しようとなると何かと抵抗勢力がぞろぞろ出てきますが、監査基準についてはあまりニュースにもならず、簡単に国際的な基準が入ってくるようです。

(13) What are your views on the introduction of ISAs in the EU?
(14) Should ISAs be made legally binding throughout the EU? If so, should a similar
endorsement approach be chosen to the one existing for the endorsement of
International Financial reporting Standards (IFRS)? Alternatively, and given the
current widespread use of ISAs in the EU, should the use of ISAs be further
encouraged through non-binding legal instruments (Recommendation, Code of
Conduct)?
(15) Should ISAs be further adapted to meet the needs of SMEs an
d SMPs?

ISAってどう思いますか、EUで強制的に導入すべきだと思いますか、中小企業にも適用できると思いますか?ということです。

(つづく)

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決算はつらいよ

予想通り、早速更新を止めてしまいました。面目ない。
どん底の業績に加え、いろいろあって内部統制対応がすっかり後手に回ってしまって、かなりのばたばたです。
それでも意地で宿泊場所にパソコンを持ち込んで、なんとか更新頻度を上げようとしたのですが、どうにもこうにも体力がもちません。体力任せの仕事のやりかたはだんだんつらくなってきています。

てなわけで、4月中はマイペースの更新となりそうです。

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内部統制報告制度に関するQ&A(追加分)

「内部統制報告制度に関するQ&A」の再追加について

やっと出ましたね。例文が。期末日過ぎてからでいいのか、って気はしますが。

というわけで以下内部統制報告書のテンプレ。著作権フリー(笑)

---
1【財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項】
 代表取締役社長××××及び取締役副社長××××は、当社の財務報告に係る内部統制の整備及び運用に責任を有しており、企業会計審議会の公表した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」に示されている内部統制の基本的枠組みに準拠して財務報告に係る内部統制を整備及び運用している。
 なお、内部統制は、内部統制の各基本的要素が有機的に結びつき、一体となって機能することで、その目的を合理的な範囲で達成しようとするものである。このため、財務報告に係る内部統制により財務報告の虚偽の記載を完全には防止又は発見することができない可能性がある。

2【評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項】

財務報告に係る内部統制の評価は、当事業年度の末日である平成 2×年3月 31日を基準日として行われており、評価に当たっては、一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準に準拠した。
 本評価においては、連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制(全社的な内部統制)の評価を行った上で、その結果を踏まえて、評価対象とする業務プロセスを選定している。当該業務プロセスの評価においては、選定された業務プロセスを分析した上で、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点を識別し、当該統制上の要点について整備及び運用状況を評価することによって、内部統制の有効性に関する評価を行った。
財務報告に係る内部統制の評価の範囲は、会社並びに連結子会社及び持分法適用会社について、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性の観点から必要な範囲を決定した。財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性は、金額的及び質的影響の重要性を考慮して決定しており、会社及び連結子会社×社を対象として行った全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、業務プロセスに係る内部統制の評価範囲を合理的に決定した。なお、連結子会社×社及び持分法適用関連会社×社については、金額的及び質的重要性の観点から僅少であると判断し、全社的な内部統制の評価範囲に含めていない。
 業務プロセスに係る内部統制の評価範囲については、各事業拠点の前連結会計年度の売上高(連結会社間取引消去後)の金額が高い拠点から合算していき、前連結会計年度の連結売上高の概ね2/3に達している 5事業拠点を「重要な事業拠点」とした。選定した重要な事業拠点においては、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目として売上高、売掛金及び棚卸資産に至る業務プロセスを評価の対象とした。さらに、選定した重要な事業拠点にかかわらず、それ以外の事業拠点をも含めた範囲について、重要な虚偽記載の発生可能性が高く、見積りや予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスやリスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセスを財務報告への影響を勘案して重要性の大きい業務プロセスとして評価対象に追加している。

3【評価結果に関する事項】
上記の評価の結果、当事業年度末日時点において、当社の財務報告に係る
内部統制は有効であると判断した。

4【付記事項】
該当事項なし

(例)
事業年度の末日後、アジア地域における販売強化策の一環として、×社
を買収し、連結子会社とした。この買収は、翌期以降の当社の財務報告に
係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす可能性がある。

評価結果に関する事項に記載された重要な欠陥を是正するために、事業
年度の末日後、リース事業部に営業担当取締役直轄のプロジェクトチーム
を設置した。同プロジェクトチーム主導で、リース事業部において契約内
容の検討及び承認手続に係る新たな業務フローを整備及び運用し、内部統
制報告書提出日までに当該是正後の内部統制の整備及び運用状況の評価
を行った。評価の結果、内部統制報告書提出日において、リース事業部に
おける適正な収益計上に必要な契約内容の検討及び承認手続に係る内部
統制は有効であると判断した。

5【特記事項】
該当事項なし

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上場企業 経営リスク2段階で表示(3/21)

3/21日経(13版)1面

金融庁は上場企業の経営を揺るがすリスクについて、投資家向けの情報開示を強化する方針を固めた。現在は一年以内に企業の存続を揺るがしかねない重大なリスクの公開を義務付けている。今後はこれより前に、リスクの度合いが不明確な段階でも開示を義務付ける二段階制にする。投資家に「銀行が融資を引き上げる懸念がある」といった予測情報などをきめ細かく開示し、株式市場の透明性を高める狙いだ。

日経の文章が悪いのか、はたまた私の頭が悪いのか、この記事では何をどうしたいのかが全くもって分からないのです。

「重大なリスクの公開」というのは、すっかり定着しましたいわゆる「継続企業の前提(Going Concern)」に関する注記のことかと思います。これ以前のリスクが開示されていないか、というとそんなわけではなく、有価証券報告書には「事業等のリスク」という開示項目があります。たとえばYahoo! Japanの有価証券報告書を拝見しますとp19から実に31ページにわたってリスク情報を満載しています。まあ、ここの開示は極端に詳細な例ですが、開示は義務付けられていますので、上場会社は多かれ少なかれこの部分で自社にかかわるリスクを記載しています。実務家としては、リスク情報は開示済みというスタンスであるので、この記事に記載されている方針が、何についていっているのかがいまいち理解できないというわけです。

金融庁の企業会計審議会が24日にも議論を始め、4月にも案をまとめる。金融商品取引法に基づく内閣府令などを改正し、2009年3月期決算からの適用を目指す。

「企業会計審議会」がやるって、どこの部会ですか?「企画調整部会」は最近IFRSがらみのことしかやっていないし、「内部統制部会」は見当違い、したがって「監査部会」でしょうか?
確かに私が指摘した上記の開示は監査項目ではありませんので、これを監査対象にするというのであれば、筋は分かります。しかしながら、

例えば「短期借入金の借り換えができないかもしれない」というように、いわばリスクの芽の段階でも「不確定情報」を開示する。

リスクというのは不確定であるからリスクなのであって、確定したらリスクではありません。「不確定情報を監査する」ということが、(もし)実際にやるのであればどのように行われるのか。はなはだ疑問ではあります。

あと、余談ですが3月決算にかかる開示について、4月に案をまとめて5月(?)に府令を改正し6月(?)に施行、というのはやめていただけませんかね。すでに実務サイドでは決算の準備が走り出しており、必要の情報収集の手配をしております。後出しでどんどん必要な情報が増えてくると困るんです。あ、まさか会社法でも開示が必要なんて言い出さないでしょうね・・・、監査対象になるのであればそうならざるを得ないと思いますが。

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金融証券市場の追加対策

3/20 日経(13版)4面

:監査法人は、保有銘柄の追加出資による簿価変動の認否や減損の基準の判断で、過度な保守主義に陥らず、合理性にも配慮すべきだ。

「監査法人は~配慮すべきだ」が対策の内容なんですか??
現在の金融庁やJICPAの処分方針を見ながら、「配慮すべきだ」って言われても、監査人さんは大変だと思うのですが。

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関連費用は私の人件費だけ

3/19 日経(13版) 15面

「関連費用は私の人件費だけ」。東証二部上場の業務用洗剤メーカー、ニイタカで内部統制を整備した雑賀努氏はこう話す。売上高百億円強の業態に合わせ、内部統制の整備を簡略化した。


ええ話やな~。
もちろんこの規模で、この監査法人だからできた話なのでしょうが、こういう話が、大企業でももっと出てきてほしいと思います。これが本来あるべき姿なのかなと。

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GMのGoing Concern

http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/40730/000119312509045144/d10k.htm#toc75433_20

延々3ページ半、長くて途中で読む気が失せました。
日本じゃ考えられない長さですね

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留保金を雇用対策に?

「ビジネス法務の部屋」

:私が疑問に思いますのは、これほど世間で「企業価値」が話題となっている今こそ、「継続事業のお値段とはこういったもの」というMAご専門の方々の意見が 日本中に広まるのではないか、(もしくは国民が耳を傾けるのではないか)と期待するのでありますが、ほとんど聞こえないのであります。

私もそう思っており、鳩山総務相が何を言っているのか、そしてこのかんぽ問題の論点が未だに理解できておりません。さりとて、この問題に口を挟むには役者不足ですし、ある程度の反論の記事も出始めているようにも見えるので、私はもっと単純な分野にて。


http://www.asahi.com/politics/update/0109/TKY200901090127.html
:また、製造業の派遣切りも論議になり、与謝野経済財政相は「人を安く使おうという傾向が企業に見られるのは残念だ。何兆円の内部留保を持っているところが職を簡単に奪うのはどうか」と述べ、トヨタなどの大企業を念頭に雇用不安を招いている企業側の姿勢を批判した。

いつの間にやら財務大臣にまでなってしまった与謝野氏のこの発言ですが、経理的には違和感ありありです。政治家の方々は内部留保というと、金塊でも隠し持っているようなイメージでも持っておられるのかもしれませんが、もちろん内部留保というのはそういうものでありません。
この文脈で内部留保が語られる場合、金額が多岐に渡っており、定義もあいまいなことが多いです。が、おそらく「利益剰余金」と同値と捉えている方が多いように見えますので、まずその前提で話をします。経理用語としての利益剰余金は大雑把に言うと以下の概念でしかありません。

(当期末累積利益)-(既配当金額)

つまり、儲かったけど「まだ」株主に配当していない金額、が利益剰余金です。たとえその金が機械装置や棚卸資産に代わっていたとしてもそれは利益剰余金としてカウントされたままです。あくまであといくら配当できるかを示す概念に過ぎません。株主は会社に配当を要求する権利がありますから、こうした機械装置や棚卸資産を売り払ってまで配当を要求する権利があるわけです。内部留保を取り崩して雇用を確保しろという議論は、極端に言えば会社の資産を売り払って従業員に分配しろという議論に等しいわけです。まあそれは言い過ぎにしても、現在の内部留保は事業の前提となっており、内部留保を直接利用しようとした場合、一部の事業の継続に影響してくるわけです。まずこの点を理解していらっしゃらない議論が大部分のようにお見受けします。

もう少し進んだ議論では、利益剰余金があるのだから、まだ会社が潰れるまでは行かないであろう、という議論です。つまり雇用維持をした場合はこれからの年度でも人件費がかさんでくる。そうした場合は、損失が膨らむ。その結果として利益剰余金が減少するが、その利益剰余金はまだ枯渇するまでは至っていないのだから、それまでは雇用維持を優先すればいいのではないか、という意見です。こういう議論であればある程度理解できます。

しかしながら、これとて資金繰りが続くことが前提となっています。人件費減少を織り込んだ決算でもすでに今期から大企業での大幅赤字決算が予想されている中、必要なキャッシュが今後とも調達できるとは限りません。今後の配当余力が不明で利払いもどうか分からない企業には銀行も投資家も金を出してはくれません。利益剰余金があったところで、その分キャッシュが無尽蔵に出てくるわけではないのです。

現在の派遣切りの実態、いや、正社員にまでそれが忍び寄っていることについての賛否についてここで述べません。しかしながら、利益剰余金の厚みがあるから雇用吸収能力がある、といった単純な見方には、経理の立場からして組するわけには行かないのです。

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