トモ・スズキ氏の講演

トモスズキというオックスフォード大学の日本人学者がいらっしゃいます。私のようなアカデミズムの端にもかからない位置にいる者にとっては海外で活躍されている学者の方の名前には疎いのですが、この方が実務家にも名前が知られるようになったのは昨年金融庁に提出されたオックスフォードレポートによるものです。

http://www.fsa.go.jp/common/about/research/20120614.html


そもそも当時の反IFRSの象徴となっていた自見金融大臣(当時)時代の金融庁の委託研究ということでいろいろ物議をかもしました。

金融庁が「詐称」を容認した学者
http://d.hatena.ne.jp/isoyant/20120903/1346598255

「オックスフォード・レポートに異議あり(週刊経営財務)」 
http://ivory.ap.teacup.com/kaikeinews/5551.html


まあ、経歴詐称かどうかは(JICPAやその構成員にとってはともかく)私にはさしたる問題ではありません。少なくとも試験に受かって監査法人に勤務していたことは事実のようだし、退会後どう名乗っていたかについてはあまり興味がありません。

むしろ、こういったものが出てきた背景や方法論(実証会計はもちろん、制度会計系の論文とも随分毛色がちがう)に興味を持ちました。今回たまたま末席に入れてもらっている学者さんの研究会に参加させていただくことができ、講演を聞くことができました。私の筆力ではうまくまとまりませんのでメモを断片的に流すことでお許し下さい。


・私はもともと南伊豆で生まれて、周囲はほとんど大学に行かないような環境に育った。ずっと哲学をやりたかったが、カネにならないので、まず公認会計士となって、監査法人に勤務して資金を貯めてオックスフォードに渡った。

・現地では哲学をやっていたが、指導教授が通常以上にオリジナリティを要求するタイプであったので、過去の経験も踏まえてこの分野での研究も行うこととなった。

・このようなレポートを提出したため、日本では反IFRS派と見られているが、必ずしもそうではない。この手のレポートは以前に中国やインドでも出しており、中国ではコンバージェンスを勧めているし、インドでは8基準のカーブアウト前提のコンバージェンスを推奨している。国によって環境は異なる。

・とくにIAS41(農業)については東南アジア諸国のプランテーション産業にとっては大問題。公正価値評価をして価値を持ち上げて成長とともに価値が低減していく会計モデルは資金の源泉がない時期から配当のプレッシャーとタックスの不確実性をもたらすもので産業をダメにしてしまう。

・これから世界的に問題となるのは中国とインドでありだからこそレポートの対象とした。、正直言って日本の状況にはあまり興味がなかった。日本は今のままでも問題ないので(注:世界における存在感はもうないので、というニュアンスのようにも聞こえましたが)。それを動かしたのは某経済団体と某省からの訪問者。


・私の研究手法は見ていただければ分かる通り、ステークホルダーを網羅的に洗い出し、分類し、細かくインタビューを重ねていく。その積み上げを分析して書くというもの。研究方法にバイアスが入りかねない等の問題点は本人である自分が重々承知している。

・今回のレポートについても、反IFRSのバイアスが入っているのではないかという批判があるのは承知している。ただ一言言わせてもらえれば、あらゆる努力をしてIFRSにサポーティブな意見を集めようとしたが、なかなか集まらなかった、というのが現実。

・しかしながら2006年にIFRSをテーマに論文を募集したケースがあったがさっぱり集まらなかった。これは適用事例が積み上がっていなかったからだが、データ数値を収集して分析する実証的研究だけでほんとうにいいんですか?

・もともと投資家保護という概念は100年前の英国において銀行のために作られたもの。当時は投資家である銀行がビジネスチャンスを見つけてきた。銀行の繁栄が企業の繁栄であり、英国の繁栄であった。現在保護すべき投資家は誰ですか?ビジネスには興味がない短期投資家は保護に値するんですか?

・個人的には中国ではイノベーションは起きないと考えている。まだ日本のほうが継続的にイノベーションを行う土壌があると考えており、もっと投資家の資金を長期的に振り向けるようにならないか、というのが課題認識。

・今後の日本のIFRS導入についてはもっとコンセンサスを重ねていけばいいという立場。(どのような概念でコンセンサスが形成されると思うのか?という問いに)現実は何らかの形で誰かが決断を下すのだが、それに向けてのプロセスそのものが目的となりうると考えている。

・投資家向けの会計が全てではない。例えば企業が全く環境問題を顧みないような国において、環境費用を開示するというのはどうだろう。コストは殆どかからず、環境対策を促進する効果があるのではないか。そういった情報提供の役割を期待している。

日本語前提の講演ですが、熱くなってくると突然英語となる熱血講演でした。
哲学系という観点から現在の金融資本主義に疑問を持ち、IFRSはその先棒を担いでいる、というお立場かと思います。

私とは必ずしも立場を同じくしませんが、日本では守旧派と見られかねない意見がIFRS発祥の地英国在住の日本人学者から出てきた意義は小さくないと思います。もう少し自分の意見を考えなおしてみるきっかけになりそうです。

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2010年のIFRSを振り返って(後)

IASB and US FASB publish proposals to improve the financial reporting of leases
17 August 2010

そしてリースの会計基準の草案も公表されました。
ファイナンスリース、オペレーティングリースの区分を撤廃し、使用権をオンバランス。
そして貸手リースには履行義務アプローチと認識中止アプローチの二本建で臨んだ基準。
これも1年後には完成基準になっているはずですが…

Staff draft of a forthcoming IFRS on fair value measurement
19 August 2010

そして公正価値については本決まりになりつつあります。
これは3月までに完成版公表予定。

IASB and US FASB complete first stage of conceptual framework
28 September 2010

そういえばフレームワークのファーストステージが終わったのを忘れておりました。
あまり読んでいません…。個人的には識者の方々が熱く語るほどはフレームワークの
議論が好きじゃないんですわ。

IASB finalises enhanced derecognition disclosure requirements for transfer transactions of financial assets
07 October 2010

金融商品の認識中止については、いろいろと概念を考えていたのですが、次第に面倒くさくなって時間も限られているんで、
開示ですますことにしました、って感じでしょうか。

Trustees appoint Hans Hoogervorst to succeed Sir David Tweedie
12 October 2010

昨年の最大のニュースでしょう。
2011年6月で任期が切れるTweedie議長の後任がHans Hoogervorst氏に決定したとのこと。
必ずしも会計の専門家ではない氏には政治的手腕が期待されており、副議長のIan Mackintosh氏が
会計の専門家であるとか

IASB issues additions to IFRS 9 for financial liability accounting
28 October 2010

いわゆる「負債のパラドックス」問題に一応の決着が着いた形です。
信用力の低下による負債の評価益についてはその他包括利益項目となりました。
もう困ったときのdust box状態。

Conclusions of the October 2010 Trustees' meeting
24 November 2010

このミーティングにおいて、IASBのアジアサテライトオフィスが東京に設置されることが
ほぼ確実になったようです。正式決定は2月の東京でのTrustees' meetingでとの噂。
議長不在時の藤沼副議長の晴れ舞台となるのでしょうか。

IASB publishes IFRS Practice Statement on Management Commentary
08 December 2010

非財務項目である、経営者の説明についてもIASBがフレームワークを
作成しました。拘束力がないと明言してあるので読んでおりません(いかんいかん)…。


IASB proposes improvements to hedge accounting
09 December 2010

ヘッジ会計の適用要件を緩めた公開草案が出ました。
これと併せ、金融商品の会計基準全体も今年の6月には
完成予定となっています。前にも書きましたが、FASBとの差異を
今後どうして行くのかが今後注目されるところです。

Statement on the death of Tommaso Padoa-Schioppa
19 December 2010

年末の悲しいニュースでした。先に書いたとおり6月に就任したばかりなのに…

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2010年のIFRSを振り返って(前)

自らの復習を兼ねて、2010年のIFRSの重要なプレスリリースを追ってみました。まあ何を重要と考えるかはポジションによって大きく異なりましし、また重要なのに誤って見落としてしまっているものもあるかもしれません。いろいろご指摘をいただければ幸いです。

IASB re-exposes proposals on measuring liabilities for asset decommissioning, legal disputes and similar items
05 January 2010

IAS37の引当金に関する基準の公開草案の更なる改訂案です。これ自体はマイナーチェンジなのですが、そもそも2005年に公表された草案がここまで引っ張られており、なおかつまだマジョリティの賛成を得られていない状態で、この公開草案については抜本的に見直される予定で、2011年の6月には間に合わない状況となっています。IASBの公式計画によると2011年の後半までに再公開草案が公表され、2012年完成を目指しているようです。


Trustees announce further governance enhancements
15 February 2010

Constitutionの変更ということで、IFRSの目的についてadoptionということが明確に位置づけられたものです。
もっともこれよりも従来IASC Foundationと呼ばれていた組織がIFRS Foundationと名を変える一方、IFRS Board と名を変える予定だったIASBはそのままになるなど、関係者の微妙な意識の揺れ動きを感じさせる改革でもありました。

IASB proposes improvements to defined benefit pensions accounting
29 April 2010

いわゆる退職給付にかかる会計基準の改訂案です。純年金債務のオンバランスを強制する一方で、損益として計上する項目とその他の包括損益として計上する項目を明確に分けることとしています
2011年の前半には最終基準という目標は崩していせん。

Monitoring Board approves appointment of Vice-Chairs of the Trustees
17 May 2010

Constitutionで新設された副議長のポストに日本の藤沼亜紀氏を含む2名が選出されました。
IFRS陣営に取り込むための人質との陰口も聞かれましたが、どういう事になるか。後述するように現時点では議長職は空席です。


Request for comment: FASB Financial Instruments Exposure Draft
27 May 2010

FASBが金融商品にかかる会計基準の草案を公表しました。IFRS9号とは異なる基準を世に問うことで
独自路線を明確化。今度IFRS側がどう対応していくのかが今年の焦点となるでしょう。


IASB proposes improvements to the presentation of items of Other Comprehensive Income
27 May 2010

包括利益計算書において、いわゆる1計算書方式に統一するという基準案が公表されました。しかしながら、
これも基準確定の最終議決には至っておりません。2計算書方式への指示が予想外に多かったということなのでしょう。
最終議決は2011年1Q(3月)までに行われる予定となっております。
ちなみに日本では2011年3月期に初の包括利益計算書を作成する会社が多いと思われます。日本では1計算書方式、2計算書方式双方認められています。日本では2計算書方式の支持が多い中、IFRS早期適用を謳っている企業群がどのような開示をするかが注目です。

IASB and FASB issue statement on their convergence work
02 June 2010

MOUの当初目標である2011年6月、Tweedie議長の任期である2011年6月での完成をついに諦め、
一部を2011年の後半に持ち越すことを決意したStatementであります。スケジュールはどんどん迷走していくことになります。

Tommaso Padoa-Schioppa to return as Chairman of the Trustees following the July Trustees' meeting
18 June 2010

一旦2006年の1月に就任したものの、国元の大臣になるために5月で辞任したPadoa-Schioppa氏(読めない)。
今回満を持しての就任と思いきや、運命というものは非情なものです。

IASB and FASB propose a new joint standard for revenue recognition
24 June 2010

包括的な収益認識基準案がついに完成しました。1年後には最終基準となる予定ですが、
果たしてどうなることやら


IASB proposes improvements to insurance accounting
30 July 2010

保険業の会計についても公開草案が出されました。これも1年後完成予定。
これは専門外なので多くは語れません…

(つづく)

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IFRSにおける減価償却費(定率法の扱い)

IFRSのサイト上ではあまり目立ってなかったのですが、日本の一部で盛り上がっていたのが以下の記事です。


Depreciation and IFRS


現在の日本のIFRSのアドプションをめぐる議論において、日本基準との大きな差異としてクローズアップされている項目のひとつに減価償却費が挙げられることが多いです。税法の耐用年数が認められないとか、耐用年数は毎年見なおさなければないとか、「コンポーネントアプローチ」を適用しなければならないとか、いろいろなことが言われています。

そんな中での議論の一つに「IFRSでは定率法が認められない」という項目があります。この言い方自体が既に世間に流布しており、あたかもIFRSにはそのように書いてあるかのようですが、現実にはIFRSでは償却方法について、特定の方法に言及しているわけではありません。

以前金融庁が「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」において


IFRSは、減価償却は資産の償却可能価額を耐用年数にわたって規則的に配分するものであり、償却方法は、将来的な資産の経済的便益の消費パターンを反映したものを採用しなければならないとされている。定率法と定額法との間に優劣はない。

と一応宣言しております。

そんな日本の状態を知ってか知らずか出てきたのが上記のレポートです。

IAS 16 permits a variety of depreciation methods(p5)と題された項に記述されています。

Is there a preference in IAS 16 for the straight-line method over other methods? Again, I think not. The straight-line method may be the easiest to administer and for financial statement users to understand, in the absence of evidence to the contrary. Those factors make it the easiest method, but not necessarily the preferred method.(p6)

IAS16号では定額法が優先されているって?そんなことはない、分り易いってだけのことと言い放っています。

で、定率法についてはこんなことも(p6)

For example, many assets require more repairs and more frequent maintenance in the later years of their lives. Similarly, management may expect that the price of a product produced by an asset will decline over the asset’s life. Both suggest that a declining balance method may be a better approximation of the pattern of consumption.

資産によっては修繕やメンテナンスが今後必要になってくるものもある。同様に、年次を経るごとに生産品の価格が落ちて行くと考えられるものもある。そう考えると定率法というのも費消のパターンを示している場合もあるといえる、くらいのトーンでしょうか。

で、結局は(p7)

The selection of a depreciation method and the pattern of depreciation charges, is ,then, constrained by the requirements found in paragraphs 32 to 38 of IAS 8 Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates and Errors. The extent to which an entity’s management documents its choice of depreciation methods is a matter of internal control over the financial reporting process. IFRSs do not specify the detail with which that documentation should be prepared. Instead, judgements about depreciation and documentation are a matter left to the judgement of the entity’s management and auditors.

結局は会計方針の問題なので、判断の問題であり、その根拠は明確にしておく必要がある、ということろに行き着きます。要はこの見解、新しいことは何も言っていません。会社が自ら定率法の根拠を示せるのであれば、継続的に定率法が適用できるし、もし説明できないのであれば定額法のほうが説明しやすい、これだけのことです。

要はもうちょっと自分の頭で考えましょうってことですな。


(追記)これ書いた後、日経に載っていることを知りました

固定資産の償却方法、定率・定額ともに容認 国際会計審が見解

容認も何も、もともと何も書いてないことを、何も書いてませんと改めて表明しただけの話です。何かが進展(後退)したわけではありません。

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IASB会議報告(第127回から第129回まで)(2)

排出枠取引スキーム(p15)
この分野にも明るくありませんが、まず前提となる「キャップ・アンド・トレード・スキーム」を理解する必要があります。


キャップ・アンド・トレード
キャップアンドトレードは、政府が温室効果ガスの総排出量(総排出枠)を定め、それを個々の主体に排出枠として配分し、個々の主体間の排出枠の一部の移転(または獲得)を認める制度のこと。

そして、企業の立場から言えば、排出権という権利を無償で受け取ったと同時に、排出を削減する義務を負うわけで、それをどのように会計処理をするか、という論点です。もっとも正確にどのような義務を負っているかはまだIASBとFASBでは整合していない模様です。

で、まず当初認識の際にどのように測定するかというと、公正価値にて資産負債を同額計上するというアプローチが支持されています。そして事後認識も同じように公正価値にて計上することに暫定決定されています。そしてその義務の測定には「予想返却アプローチ」、すなわち排出枠を達成できなかった際に返却しなければならない枠について加重平均にて見積もる方法が支持されています。

概念としては理解できるのですが、私個人は具体的にどういう計算をするのかが全くイメージが湧きません。もうすこし学習が必要ですね。

財務諸表の表示(p18)

2011年6月までに完成させることを目標に進めているMOUプロジェクトに両者の資源を集中すべきことが合意され、資源にゆとりができるまで、当面本プロジェクトを休止することが暫定的に合意された、とのこと。
これで、直接法のキャッシュフロー強制はしばらく棚上げになるということですな。実務的にはほっとしております。

その他、短いですが、質疑応答がなされています。重要なのを抜粋しますと

Q:包括利益の表示の議論がスタッフに差し戻されたということだが、その他包括利益の内容についても議論が行われるということか?

→A:それをやっていては何時まで経っても終わらない。あくまで表示の形式について検討するだけで、何をその他包括利益にするかは個別の基準による。

Q:議論には出ていなかったが、IAS37(引当金)について、当初は来年の初頭にも結論が出るということであったが、それがかなり遅れているという認識で良いか?

→A:公開草案に対する議論が蒸し返されており、来年の後半くらいに、再公開草案が出せればいい方。その時には測定の問題だけではなく、一度結論が出た認識の問題(蓋然性基準の廃止)についても再度問うということになるであろう。

後者についても、日本ではかなり公開草案に反対してきた経緯があり、ここで明らかな揺り戻しが出てきていることは朗報でしょう。日本の影響力のせいかどうかはともかく、今後も意見発信していくべきであることは確かなようです。

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IASB会議報告(第127回から第129回まで)(1)

IASB会議報告(第127回から第129回まで)

ASBJのウェブサイトで、IASB山田辰己理事のIASB会議報告を読むことが出来ます。いや読むことが出来るだけではなく、下記のWebCastで報告を聴くことができます。
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/minutes/20101105/20101105_webcast.jsp

日本語で最新情報のサマリーが会員以外でも無料で聴けるというのはなかなか有益だと思います。40分程ですのでお時間のある方は試してみてはいかがでしょうか。

私は11/14(日)の朝に聴きましたので、気になった所について書いてみます。
当日のテーマは金融商品、特にヘッジ会計が主題となっているようですが、その辺りは苦手分野であり、最新の状況についてコメントできるレベルにはありませんので、それ以外のところでいくつか書いてみます。

包括利益計算書の改訂(1計算書方式への統一)(p12)

包括利益計算書については、損益計算書と統合して表示する1計算書方式か、別々に表示する2計算書方式か、現行IFRSでは選択が認められています。そして、IFRSでは5月に1計算書方式への1本化を求める公開草案を公表しておりました。それを知りつつも、日本ではなぜか1計算書方式への抵抗が非常に強く、今年度から適用される包括利益計算書の会計基準では選択を認めたままで運用されることになっています。

5月に公表された公開草案に対する意見を現在集約させているところのようなのですが、公開草案には意外にも1計算書方式に対する懸念が多く寄せられたとのことです。それでもIFRS理事の採決では1計算書方式への一本化への賛成が過半数(山田理事の発言によると8/9)であったとのこと。ただFASBとの合同会議の席でのFASBの採決は過半数に至らなかったとのことで(山田理事の発言によると2/5)、もう一度スタッフ差し戻しになった模様です。
IASBならともかく、FASBが日本の意見に配慮しているとはとても思えませんので、日本以外でも1計算書方式への統一には懸念を示す声がそれなりにあるということのようです。日本の多数の方には朗報かと思います(個人的にはあまりこだわりはないのですが・・・)


退職後給付(p13)

これも4月に出た公開草案に対する意見の集約をしているところです。基本的には以下に示す公開草案の骨子は変わらないまままとまりそうな気配です。ただし、年金資産の期待収益を計算するための利率について、公開草案では実質的に割引率を使用する提案をしていたものの、今回はどういった経緯かスタッフは再び期待収益率を切り分ける提案をしてきたようです。しかしながら理事の決議はそれを退けるものだったようです。スタッフと理事との間にもやや温度差があるように見えます。
(骨子)
(a) 確定給付債務の現在価値及び制度資産の公正価値の変動のすべてを、それらが生じた時点で認識する。
(b) 権利未確定の過去勤務費用は、関連する制度変更が生じた時点で認識する。
(c) 制度資産の公正価値及び確定給付債務の変動のすべてを勤務費用、財務費用及び再測定構成要素に分解する。
(d) 勤務費用を測定する際に使用された仮定の変化から生じる利得及び損失は、勤務費用には含めない。
(e) 財務費用構成要素は、確定給付負債(又は資産)純額に対する金利純額(確定給付負債(又は資産)純額に確定給付債務の測定に用いられたのと同じ金利を適用して算出)から構成されなければならない。

つづく

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アジア・オセアニア会計基準設定主体グループのウェブサイト

アジア・オセアニア会計基準設定主体グループのウェブサイト


アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)は、メンバー間の
効果的かつ効率的なコミュニケーションを可能とするとともに、アジア・オセ
アニア地域の外部関係者のAOSSG に対する認知度を高めること等を目的とし
て、第2 回年次会合でウェブサイトを立ち上げることに合意した。AOSSG は、
財務報告の関係者が定期的に本サイトを閲覧することを歓迎する(リンク先:
http://www.aossg.org/index.php)。

AOSSGがウェブサイトを立ち上げたというASBJのプレスリリース。そもそもAOSSGとは何かということなのですが、アジアおよびオセアニアの会計基準設定主体の集まりで、昨年に発足しております。昨年の時は全く気にしていなかったのですが(笑)、本年になって今回の議長がASBJの西川委員長であること、そしてIASBのサテライトオフィスが東京になりそうだ、というニュースと相まって、今後注目しておいたほうがよさそうな気がします。

AOSSGの歴史をたどってみますと(といってもかなり少ない)

準備会合(2009/4 北京)


このような点に鑑み、参加者は、当該地域におけるIFRSの採用やコンバージェンスを促進し、一組の単一の高品質なグローバルな会計基準を設定するためのIASBの取り組みを支援し、当該地域のそれぞれの国・管轄地域の立場とIFRSの開発への参画を調整し、当該地域における財務報告基準の整合性と比較可能性を改善し、管轄地域の公益のために財務報告の品質を向上させるため、アジア・オセアニア基準設定主体グループ(AOSSG)の設立に関連する論点を議論した。参加者は、AOSSGをできるだけ早期に設立することで合意した。

第1回会議(2009/11 クアラルンプール)


AOSSGメンバー国 はまた、AOSSGの4つの目的を定めた覚書(MOU)を採択した。その目的とは、以下のとおりである。
(a) 当地域の各国による国際財務報告基準(IFRS)の採用及びIFRSとのコンバージェンスを促進すること
(b) 当地域の各国によるIFRSの整合的な適用を促進すること
(c) 国際会計基準審議会(IASB)の専門的活動に対する当地域からの意見を調整すること
(d) 当地域の財務報告の品質改善のため、政府や規制当局、他の地域組織や国際機関と協力すること

第 2 回会議(2010/9 東京)


第 2 回AOSSG 会議における議論の概要
1. 連結 WG
2. 排出量取引 WG
3. 公正価値測定
4. 金融商品
5. 財務諸表表示
6. 保険
7. イスラム金融
8. リース

中でも「イスラム金融」というのが注目ですな。アジアの独自性が発揮できる項目かと思いますので。

ただ、次の会合が2011年の11月という悠長なことを言っています。まあそれぞれのワーキンググループの事務方は会合を重ねていくのでしょうが、アピール力としてはどうなのか。

ともあれウェブサイトを公開し、意見発信をしていく姿勢を鮮明にしたことは注目に価するかと思いますので、今後ともフォローをしていきたいと思っています。

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Trustees seek public comment on the future strategy of the IFRS Foundation

Trustees seek public comment on the future strategy of the IFRS Foundation

The Trustees of the IFRS Foundation, the oversight body of the International Accounting Standards Board (IASB), today published a first-stage consultation document designed to solicit input on the strategy of the IFRS Foundation as it enters its second decade. The Trustees initiated this review as a result of the second Constitution Review that was completed earlier this year.

IFRS財団の評議員(Trustee)が、今後10年間の戦略についてのコメントを求めるために、質問文書(consultation document 定訳ありますか?)を公表したとのこと。

もともと評議員の方々は、憲章の改訂作業に携わっていたわけですが、その過程において、今後の戦略につき利害関係者からコメントをとることについて決議したという経緯があるようです。IASBが前身のIASCから設立されてから10年。この間に100以上の国々で受け入れられているということを成果として、さらに今後の10年間で”a single high-quality globally accepted set of accounting standards”という究極の目標と成果をどのように結びつけていくかという戦略策定の参考にしたい、ということのようです。この目標自体に疑念を呈する方もいらっしゃるでしょうが、憲章(Constitution)で決まっておりますので(para.2)それはもう所与のものであります。

で、質問内容ですが、次の5つの大問に対して8項目の小問からなっています。

Mission: How should the organisation best define the public interest to which it is committed?

“public interest”についてどのように定義すればよいのか。
特に、金融危機に際して会計基準の要求と金融安定化等の政策要請の間に差があることが浮かび上がってきたことからの論点のようです。

Governance: how should the organisation best balance independence with accountability?

現在のMonitoring Board、IFRS Foundation, IASBのバランスがこれでいいのか。そして各国の当局の関与がこのレベルでいいのか、ということについて意見を求めています。各国での採用が進む反面、curve-out付の採用という側面もあることから、そのあたりの論点も興味があります。

Process: how should the organisation best ensure that its standards are high quality, meet the requirements of a well functioning capital market and are implemented consistently across the world?

今の基準設定プロセスが現在のままでいいのかという問題提起。とくに、世界的な適用の一貫性について、もっとIASBが関与すべきなのかどうかについて意見を求めています。

Financing: how should the organisation best ensure forms of financing that permit it to operate effectively and efficiently?

効果的および効率的な資金調達の方法につき意見を求めています。

Other issues


コメント収集期限は2010年12月31日です。

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国際会計基準(IFRS)の早期適用について(日本板硝子株式会社)

既に周知の記事ですが、これを取り上げなわけにはいかないでしょうというわけで。

国際会計基準(IFRS)の早期適用について

当社は、連結財務諸表の作成にあたり、2011年4月1日より国際会計基準(IFRS)を早期適用することを決定いたしましたので、お知らせいたします。これにより、連結財務諸表に、2012年3月期(FY2012)以降、同基準を適用いたします。
国際会計基準(IFRS)の適用は、当社グループの国際的な事業展開と株主構成に、適したものであります。
本決定は、日本に本社を置く、真に国際化した企業となろうという当社グループの意思の表れであります。国際的な事業展開と株主構成に適した国際会計基準(IFRS)の適用は、取締役会メンバーの国際化、委員会設置会社への移行、といったこれまでの施策の流れをくむものであります。
実務レベルでは、2006年のピルキントン社買収により、グループの約2/3は既に国際会計基準を使用しているため、グループ全体が国際会計基準に移行することで、同基準から日本基準への組替えの必要がなくなります。グループ全体が同一の会計上の言語を用いることは、内部の意思決定プロセスに非常に有益であります。
本決定の定量的な影響については、別途、適用の開始前にご説明する予定です。

短いので全文引用しました。前年度末から適用している日本電波工業についでIFRSの適用を正式に表明したのは日本板硝子。日本では2社目になります。

プレスリリースにもあるとおり、2006年にピルキントン社を買収した後に経営者も連れてきた会社です。その後経営者は家庭の事情という名目*1でお帰りになられましたが、2010年にはデュポン出身の社長を招聘*2。資本関係とかかわらず、外国人経営者をトップに据え、従来の経営とは一線を画す決意が垣間見えます。


*1 辞任後に「日本の人事制度や商慣習がこれほど国際展開にそぐわないとは思っても見なかった」と言っている(『日本企業を強くするM&A戦略』菊地正俊(PHP新書)p32)そうなので、額面通りには受け取れないとの説が多いですね。

*2なぜかwiki(11/9修正)wikipediaでは社長が変わっておらず、タレント千秋のお父様(藤本勝司氏)が社長のままです。誰か編集してあげましょう(他人任せ)


そんな中ですし、またプレスリリースによれば、既に2/3がIFRS適用済みということなので、今回の方針は必然のものであったのかと思います。とはいえ、既に2/3がIFRSを適用し、それを日本基準に組み替えているといっても、日本の会計基準で強制されている組み替えはわずか6項目です。残り1/3のうちの日本の割合がどれだけかわかりませんが、それをIFRSに変換する方が限定がないので遥かに大変かと思います。現時点でどこまで準備が出来ているのか外野からはわかりませんが、残り半年の作業はかなりタイトなものと推測いたします。経理の皆さんのご苦労はいかばかりかと。

経営体制が上記のようなものであるため、必ずしも他の会社にそのまま適用できるわけではないかと思いますが、ぜひ先駆者として事例を積み重ねてほしいものです。

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10月のIFRS

7-Oct-10
IASB finalises enhanced derecognition disclosure requirements for transfer transactions of financial assets

金融資産の認識の中止に関する開示を拡充する基準が完成したとのリリース。もともとは金融資産の認識の中止については新たに会計基準を設定する予定だったのですが、公開草案に対する反応がはかばかしくなく、開示の充実にとどめたということです。

7-Oct-10 Live webcast on IFRS 7: Financial Instruments: Disclosures
上記のwebcast情報。もう終了しています。

12-Oct-10 Interoperable Taxonomy Architecture project publishes Global Filing Manual for XBRL

XBRLによるレポーティングを共通化していこうとしているプロジェクトにおいてGlobal Filing Manual for XBRLを発行したというリリース。この分野に疎い私はこの成果がどれだけのものかわかりません。EDINETにも言及しているようですが、この関係の日本側の記事が見当たらないので・・・

12-Oct-10 Duck-Koo Chung to serve as Trustee of the IFRS Foundation

韓国の鄭徳亀氏がIFRSのTrusteeに選ばれたとのリリース。アジアの中でいち早いアドプションを表明している韓国ならではなのでしょう。和文はこのあたりで。


12-Oct-10 Trustees appoint Hans Hoogervorst to succeed Sir David Tweedie

そして今月一番のニュースは10年にわたってIASBを仕切ってきたTweedie氏の後任が決定したという記事。必ずしも会計の専門家ではないオランダのHans Hoogervorstをあえて理事に据えて政治活動に邁進させ、会計実務の方は副理事長である、Ian Mackintosh氏を置くというツートップ体制を敷くようです。
http://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/news/2010-10-18-04.html

19-Oct-10 IASB and FASB consult on effective dates for convergence accounting standards


各基準の公表後の発効日が現在12-18ヶ月後となっていることについての意見募集です。今後いくつもの会計基準が同時期に公表されることから、それについての発効日をどのようにしたらいいかの参考にするためということのようです。

20-Oct-10 Monitoring Board - IFRS Foundation Trustees Meeting: webcast and observer details available


モニタリングボードとIFRS財団の会合があるようで、そのwebcastの募集。
その結果はどこにも出ていないようですが、IAS Plusによると下記のようなことが議題となっているようです。
• Report from the Monitoring Board on recent activities
• Report from the IFRS Foundation on recent activities
• Budget 2011 and financing strategy
• Strategy planning post completion MoU projects

20-Oct-10 Live webcast on Insurance Contracts exposure draft

保険契約の公開草案に関するwebcastの案内。これも終わってます。

27-Oct-10 Live webcast on Leases exposure draft

リースの公開草案に関するwebcastの案内。これも終わっています。

28-Oct-10 IASB issues additions to IFRS 9 for financial liability accounting

金融負債の時価評価に関しての最終基準。私も記事にしていますので以下を参照ください。

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